2022 Fiscal Year Research-status Report
ネガティブ感情の表出者に対する対人評価における無意識的偏見とその制御
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22K13797
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
山内 香奈 成城大学, 文芸学部, 准教授 (70327211)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 無意識的偏見 / ジェンダー / 感情 / コミュニケーションスタイル / 偏見抑制教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
米国での白人を対象とした実験研究から,男性リーダーは,悲しみより怒りを表した場合に能力をより高く評価されるのに対し,女性リーダーは男性リーダーと同様に怒りを表すと,能力をより低く評価されるジェンダー・バイアスがあることが報告されている。本研究の目的は,①このようなジェンダー・バイアスが日本人実験参加者にも認められのかを検討することである。また,②ジェンダー・バイアスがみられた場合,その心的抑制法として現実的なものを整理し,効果を比較検証する。 本年度は目的①のためのオンライン実験を行い,30歳~59歳までの912人(男女各456人)からデータを得た。実験では管理職の中途採用面接場面で,応募者役と面接者役が会話する様子を描いた動画(約2分)を作成し,用いた。動画では面接者役が応募者役に,前職での最大の失敗経験とその時の感情を尋ね,応募者役が答える様子が描かれている。実験参加者は動画視聴後に応募者の将来性,有能性,誠実性,感情表出の原因帰属について評定した。分散分析の結果,表出感情の種類と応募者の性別との間に交互作用効果はみられず,男女応募者共に怒りよりも悲しみの感情を表す方が将来性,有能性,誠実性の評価が高くなり,また,悲しみよりも怒りを表した方が内的帰属がされやすい(当人の性格に起因)ことが示された。一方,実験参加者の性別を考慮した階層的重回帰分析の結果からは,男性評価者は女性評価者に比べ,男性応募者が怒りを表す場合に能力や将来性を高く評価し,女性応募者が悲しみを表す場合に能力をより高く評価する傾向がみられた。これらは伝統的な性役割規範と一致するものであり,ジェンダー・バイアスの存在を示唆すると考えられる。来年度は,評価者の性別を考慮した分析を深度化させ,感情表出を全くしない条件や応募者の職位が異なる条件を設けて実験を行う。また,恥ずかしさの表出効果についても検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は上述の大きく2つの目的について検討するものである。目的①については,怒り,悲しみ,恥ずかしさの3つの感情を中心に扱うことを予定している。今年度は,当初の予定通り,怒りと悲しみの感情を対象とし,実験刺激を試作して実験を行い,データを得て分析を行った。本年度得られた知見については,日本行動計量学会および日本心理学会において学術発表2件行った。 本年度の研究から,米国での先行研究にはみられなかった評価者側の性別の効果がみられ,男性評価者は女性評価者に比べ,男性および女性リーダーの人物評価にジェンダー・バイアスがみられる可能性が明らかになった。そのため,そのようなジェンダー・バイアスを生む背後にある心的メカニズムについて明らかにすることが重要であると考えられる。次年度は,そのような心的メカニズムの解明に必要と考えられる心的変数を含めた実験を計画・実施する。また,実験に用いた実験刺激は,イラストと音声を伴うものであったが,それらが評価に影響した可能性も考えられ,それらの影響を排除した実験も行う必要がある。以上のように,新たな課題は見いだされたものの,研究は概ね順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,怒りと悲しみの感情を対象とした実験をより精緻化した形(音声やイラスト表現による影響を取り除く)で,かつ,ジェンダー・ステレオタイプに関する認識を問う項目を増やして実験を行うこと,および,恥ずかしさの感情についても検討することが主な課題となる。その際,今年度はデータが得られていない20代も加えてデータを収集し,実験参加者(評価者)の年齢の効果についても分析する。また,人物評価におけるジェンダー・バイアスの低減策に関する心的方策について,2024年度に比較検証するための候補を整理していく。今年度の実験結果から,リーダーの人物評価に関して,米国のそれに比べると程度は少ないものの,一定のジェンダー・バイアスがある可能性が見出された。そのため,それらを抑制するための心的方策を考えることは重要であると考えられる。Brescollらは,「女性は感情的である」という西欧社会に広く共有されてきたジェンダー・ステレオタイプによって,女性は理性的でなく,能力が低い,リーダーの資質に劣るという心的表象が本質化され,当然視され,固定化されてきたことが,リーダーの人物評価にジェンダー・バイアスをもたらす要因となっていると述べている。日本においても,「女性は感情である」というステレオタイプをはじめ,男女の伝統的性役割にそった男女の特性(「らしさ」)を支持するジェンダー・ステレオタイプは複数みられ,それらが社会にどの程度,共有されているのか,また,男性や女性のリーダー(管理職)の心的表象は具体的にどのようなものであるのかを調査し,明らかにする。そして,それらの結果とリーダーの人物評価に関する実験結果とを結びつけ,考察する。 学会発表に加え,2022年度の成果について学術論文にまとめる。
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Causes of Carryover |
大きく下記の3点の理由がある。一つ目は,実験で使用する動画刺激の作成経費が大幅に減少したことである。本研究を開始する前段において,予備的に試作した動画の材料を使用し,それらを組合わせ,修正を加えることで,自前で動画を作成することができた。この動画を使ってまずは当初の計画よりも小規模に実験を実施し,その結果を踏まえ,実験を改良した上で,より規模を拡大して実験を重ねる方針に切り替えた。二つ目は,当初から計画していたオンラインで行う質問紙実験について,画面構成などを調査会社ではなく自分で行うことができる調査会社に変更したことで,当初の予定より調査費用が削減した。三つ目は,学会がオンラインになり、学会参加のための旅費がかからなかったことで,当初の予算よりも少ない経費でまかなえたことである。
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Research Products
(2 results)