2023 Fiscal Year Research-status Report
ネガティブ感情の表出者に対する対人評価における無意識的偏見とその制御
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22K13797
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
山内 香奈 成城大学, 文芸学部, 准教授 (70327211)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ジェンダー・バイアス / 非意識的影響 / 対人認知 / 感情の表示規則 / 対応バイアス / ステレオタイプ |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度はBrescoll他(2008)の実験パラダイムをベースに、管理職(リーダー)の中途採用面接場面を題材としたオンライン実験を行い、リーダーが示す怒りと悲しみの感情表出が、リーダーの評価(有能性、誠実性、将来性など)に及ぼす影響について検討した。本年度は更に3つの実験を行った。1つ目は、リーダーが感情を表出しない統制条件について実験を行い、昨年度取得したデータと合わせ、計1934人のデータを分析した。その結果、米国白人を対象とした研究では、怒りの表出は男性リーダーの評価を高めたのに対し、リーダーの性別を問わず、統制条件で評価が高くなり、ジェンダー・バイアスはみられなかった。これは日本人が公的場面で否定的な感情の表出を禁じる表示規則を有していること(Matsumoto & Ekman, 1989)が影響していると考えられる。また、男性実験参加者は誠実さの評価を除き、怒りと悲しみの条件間でリーダーの評価に差はみられなかったが、女性実験参加者では悲しみ条件よりも怒り条件でリーダーの評価が低くなり、表出感情に対する受け手の反応には性差がみられた。2つ目は、Brescoll他(2008)が実験で示した、女性の怒りの原因は内的帰属されやすいのに対し、男性のそれは外的帰属されやすいこと、そのため、女性が怒りを表出する際、外的な原因があることを伝えると評価のジェンダー・バイアスが軽減することについて、日本人でも同様な結果が得られるかを実験した。その際、外的要因を伝える外的帰属条件だけでなく、自分に非があることを伝える内的帰属条件も加えた。その結果、被面接者の性別を問わず、内的帰属条件で評価が高くなり、自責を強調する謙虚さが評価を高めたと考えられる。以上から、米国白人リーダーの評価にみられるジェンダー・バイアスやその軽減策に関する知見は、日本人にそのまま当てはまらない可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の研究を進める中で、米国白人を対象とした先行研究から示された対人認知のジェンダー・バイアスやその軽減策に関する知見が、日本人にはそのままあてはまらない可能性が見出された。その背後には、日本と米国の社会で共有される感情表示規則や感情解読規則が異なること、また、米国に比べ日本の社会における女性管理職の希少性が際立って高いことによる女性管理職に対する社会的なイメージの違いなどが考えられる。これらの背景要因についてより詳しく調べることが、バイアスの軽減策を検討する上でも重要になると考えられることから、当初の計画では予定していなかった男女の管理職に対するイメージ(ステレオタイプ)を定量的に把握するため、自由記述形式で回答を求める調査を追加して行うこととした。現在、取得したデータについて、テキストマイニング分析を行っている。そのような研究計画の一部変更に伴い、当初の計画において今年度に実施する予定であった、恥ずかしさの感情表出の影響に関する検討が次年度に延期された。
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Strategy for Future Research Activity |
研究を進める中で、当初の研究計画から実施事項の一部を変更する必要が生じたため、本年度は下記の4点について実施し、最終的な成果をまとめ、論文を執筆する予定である。 1点目は、男女の管理職に対する心的表象の違いについ定量的知見を得るためにテキストマイニングを行う。2点目は、怒り、悲しみ、統制の各条件下でのリーダーの評価として、年収予測や雇用意思の評価指標についても併せてジェンダー・バイアスの働き方を調べ、評価する側と被評価者(リーダー)の性別間の交互作用効果について、より体系的に知見を整理する。3点目は、怒りや悲しみといったネガティブな感情とは異なるが、日本人に特徴的な感情とされる「恥ずかしさ」の表出が対人認知に及ぼす影響について実験を行い、検討する。4点目は、米国の白人女性リーダーの評価にみられるジェンダー・バイアスに比べると、日本人の女性リーダーの評価にみられるジェンダー・バイアスは異なる様相を示す可能性が高いことから、先行研究で有効と考えられるバイアス低減策とは異なる方策について検討する必要がある。本年度は、それらについて理論的な観点から候補を絞った上で、実験的にその有効性を検証する。
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Causes of Carryover |
研究を遂行していく中で、当初の研究計画を変更する必要が生じたため。より具体的には、今年度実施を予定していた「恥ずかしさ」の感情表出に関する実験を行う次年度に延期したため。また、日本心理学会での発表について、新型コロナに感染したため、オンライン発表に切り替えたため、旅費の支払いが不要となったため。
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