2022 Fiscal Year Research-status Report
社会環境が親密他者に対する心理に与える影響の検討:生物学的メカニズムの解明
Project/Area Number |
22K13798
|
Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
山田 順子 立正大学, 心理学部, 助教 (20837124)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 恋愛関係 / オキシトシン / メチル化 / 社会環境 / 親の養育態度 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は,社会環境における関係流動性が,恋人または配偶者に対する情熱やオキシトシンの反応性に与える影響について検討する実験実施を予定していた。COVID-19感染リスクが高いことから唾液採取を伴う実験の実施を延期することとなった。このため令和4年度は実験実施に向けた準備を進めるとともに,既存のデータベースから関連する変数について予備的分析を実施した。 玉川大学が保有する大規模実験のデータベースを用いて,オキシトシン受容体遺伝子の第3CpGサイトのメチル化と関連する要因や,オキシトシン受容体遺伝子のメチル化と恋愛関係における人の心理や行動との関連について探索的な検討を行った。関連変数の探索的分析の結果,幼少期の父親の養育態度とオキシトシン受容体遺伝子のメチル化率との間に有意傾向の関連が示され,オキシトシン受容体遺伝子のメチル化率と愛着(見捨てられ不安傾向)との間に有意な関連が示された。さらに,見捨てられ不安傾向に対する父親の養育態度(過保護度)とオキシトシン受容体遺伝子の有意な交互作用効果が示された。分析の結果,幼少期に父親から過保護に育てられた群では,オキシトシン受容体遺伝子のメチル化と見捨てられ不安傾向とは逆U字型の関係を示した。つまり,メチル化率が高くなるとともに見捨てられ不安が高まり,ある水準を超えるとメチル化率とともに見捨てられ不安が低下する傾向が示された。一方で,幼少期に父親から過保護に育てられなかった群では,オキシトシン受容体遺伝子のメチル化と見捨てられ不安傾向とはU字型の関係を示した。すなわち,メチル化率の高まりとともに見捨てられ不安は低下し,ある水準を超えるとメチル化率とともに見捨てられ不安が高まることが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和4年度は,恋人または配偶者ペアを対象に,恋愛パートナーとの相互作用中の唾液を採取することで,パートナーに対する心理的情熱の高さや,オキシトシンの反応性を調べる行動実験の実施を予定していた。しかし,COVID-19の感染リスクが依然として高い状況であったことから,唾液採取を含む実験の実施が困難となった。 このため令和4度は,既存の大規模データベースを用いてオキシトシンの反応性にかかわる指標(例:オキシトシン受容体遺伝子のメチル化)と社会変数(例:親の養育態度)および心理変数(例:愛着)との関連を探索的に分析することで,行動実験において含めるべき調査項目の選定等を進めた。また,実験の実施に必要な機器の準備や,実験プロトコルの作成を進め,令和5年度の実験実施に向け準備を整えた。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は,恋人および配偶者ペアを対象とした,行動実験を実施し,恋愛パートナーに対する情熱の高さやオキシトシンの反応性が,参加者をとりまく社会環境(例:関係流動性,親の養育態度等)によってどのような影響を受けるのかを検討する。また,令和4年度の大規模データベースの分析において,オキシトシン受容体遺伝子のメチル化が恋愛関係における心理(例:愛着)と関連することが示唆されたことから,オキシトシン受容体遺伝子のメチル化解析を行い,オキシトシン受容体遺伝子のメチル化が社会環境によって受ける影響や,オキシトシン受容体遺伝子のメチル化がパートナーとの相互作用や相手に対する情熱に与える影響について検討する。
|
Causes of Carryover |
令和4年度の計画では,恋人または配偶者ペア50組(100名)を対象とした行動実験および唾液サンプルの採取を予定していた。しかし,COVID-19の感染リスクが依然として高い状況が続いたことから,唾液採取を伴う行動実験が困難となった。このため,実験参加者への謝礼および唾液サンプルの採取キットの購入費用を令和5年度に繰り越すこととなった。
|