2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K13875
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
菅原 通代 早稲田大学, 文学学術院, 日本学術振興会特別研究員 (70907419)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 計算論モデリング / 強化学習モデル / 固執性 / 期待 / 選好 / リッキング |
Outline of Annual Research Achievements |
焦らされることで好きになる、は本当だろうか。動物心理学では餌を得るまでに待たされるほど、その餌を好きになる現象が報告されている。本研究では、「待つ間の何が対象を好きにさせるのか」という問いに対し、「待つ間に経験する期待に基づく学習過程が、対象を好きにさせる」という仮説を検証する。 本年度は、これまでヒトに対して実施してきた、手に入りづらい対象に対する選択行動を検証した成果を発表した。恋愛シミュレーションを模したアバター選択課題を作成し、オンライン実験、シミュレーション、パラメータ推定を行なった結果、前の選択を繰り返そうとする心的過程(固執性)が「手に入らない対象を追い続ける」させ、追い続けることで対象をより魅力的に感じさせると結論づけた。この結果は、本研究課題である期待依存的な学習機構の解明の一助となる。 また齧歯類を対象として、結果に対する期待の強さが固執性を生み出すと仮説を立て、統制下でさまざまな検証を行なった。一般的に固執性は選択行動から定義されるが、本研究では何が固執性を生み出す要因となり得るかに着目し、選択によらない好みの測定方法として、リッキングの微細構造に基づく「嗜好性 (palatability)」評価を採用した。休憩せずにリックするクラスター長が好みの頑健な指標であることを確認し、現在、古典的条件付けによる期待操作の効果を検証している。また、個体差をより鋭敏に捉える計算モデルの提案を目指し、同一個体の長期縦断データの取得も進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ヒトを対象とした選択行動の背景にある計算過程を示し、実際の嗜好変化を捉えた成果を出すことができた点で、課題の進展は良好だと言える。しかしながら、本年度はラットに課題を実施させるための装置構築に大幅な時間を費やした。また、マウスを対象とした古典的条件づけによる嗜好性変化の実験から、嗜好性をリック行動で測定することの限界点も明らかとなった。そのため、ここまでの進捗を一旦まとめ、今後は計算論モデリングに重点を置いた実験に移行することも考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
計算論モデリングは、計算論的精神医学、計算論的神経科学など分野を跨いで研究領域を確立している。しかしながら近年、その方法論や信頼性・解釈妥当性に疑問を呈する論文が発表されている。本課題研究は計算論モデリングの利用が根幹にあるため、今後はモデリングの信頼性・妥当性を含めた検証も視野に入れ、研究を実施したい。現在報告されているのは、異なる課題間で同様のモデルを使用した際に起こる不一致であるが、同一個体内でもパラメータや行動の揺らぎが存在する可能性がある。このため、同一個体の長期縦断データの取得は、科学の信頼性・再現性の問題にとり、重要な課題であると考えている。
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Causes of Carryover |
今年度は、装置の作成や実験系の確立に時間を費やした。そのため、実験解析用PCの購入や学会発表を次年度に持ち越すこととなり、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(1 results)