2022 Fiscal Year Research-status Report
量子ウォークの定常性、局在性、再帰性の数理的構造の解明およびその応用
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22K13959
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小松 尭 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 研究員 (90869794)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 量子ウォーク / 古典ランダムウォーク / 今野・佐藤の定理 / 伊原ゼータ関数 / 定常測度 / 転送行列 / 本質的スペクトル / 一般化固有関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は量子ウォークの数理的構造を明らかにすることを目的としており、今年度は以下の二つの課題に取り組んだ。 (1)今野紀雄氏(横浜国立大学)と佐藤巌氏(小山工業高等専門学校)との共同研究で、量子ウォークとグラフゼータ関数の関係性を明らかにすることを目的に研究をおこなった。Grover/Zeta対応で得た結果のポイントは今野・佐藤の定理を使った極限の意味で、無限グラフ上の2種類のゼータ関数の明示公式が求まった点であり、Chinta et al.や Clairが得た伊原の公式の表現と一致している。本年度は、これらの結果が量子ウォークにとどまらず、古典ランダムウォーク、相関付きランダムウォークなどまでに拡張できたことにある。この結果はJournal of Statistical Physics(JSP)に掲載された。その他にも、量子ウォークとマーラー測度との関係を述べた結果がQuantum Information Processingに、Vertex-Faceウォークとグラフゼータ関数の対応関係はJournal of Algebraic Combinatoricsに掲載された。 (2) 二つ目の課題は、量子ウォークの定常性に関する研究である。マルコフ過程で得られている一般論を量子ウォークに対して構築するにあたって、量子ウォークの定常測度を明らかにすることが第一歩となる。本年度は1次元格子上の2状態量子ウォークについて考察し、固有値問題から誘導される定常測度の集合を求めた。量子ウォークの固有値問題から定まる定常測度は多項式タイプ、有界タイプ、指数タイプの3つに分類されることがわかった。さらに、有界タイプの定常測度の中には、空間的に周期性をもった測度が存在することがわかった。得られた結果と古典ランダムウォークの定常測度との対応関係が明確になった。これらの結果はJSPに掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究課題の一つである、「量子ウォークとゼータ関数の対応関係」に対する結果は学術誌上に出版することができた。しかし、 量子ウォークの定常測度に関する研究進度はやや遅れている状況にあり、本来の研究目的に関する進展は少なかった。以上を総合して、「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の課題として、次の三つを考えている。一つ目は、量子ウォークとグラフゼータ関数の関係性を調べる。例えば、頂点推移グラフ以外のものに拡張を行う。二つ目は、量子ウォークの定常測度に関してである。これまでは、固有値問題を解くことで定常測度を具体的に構成してきた。今後は、固有値問題からは得られない定常測度を明らかにしていきたいと考えている。三つ目は量子ウォークの諸性質を利用し「ネットワークのコミュニティ抽出」への応用を行いたいと考えている。ネットワークの中の密につながった部分は「コミュニティ」と呼ばれ、現実世界における多くのネットワークは複数のコミュニティがゆるやかにつながって構成されている。ネットワークからコミュニティを効果的抽出する方法の開発は、複雑ネットワーク科学において重要な課題である。
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Causes of Carryover |
今年度は研究打ち合わせのための出張や研究会への参加ができなかった。来年度は、情報収集や成果発表の回数を増やしたいと考えている。また、研究に必要な書籍や論文の購入などにも使用する予定である。
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Research Products
(5 results)