2022 Fiscal Year Research-status Report
Universal Formulation of the Uncertainty Principle and Mathematics of Quantum Phenomena
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22K13970
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
李 宰河 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (20816607)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 量子力学 / 量子基礎論 / 量子測定 / 不確定性原理 / 数理物理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究事業において、令和4年度は主に次の3項目の研究を実施しました。 1)不確定性原理の普遍的定式化:前世紀のハイゼンベルクの提唱になる不確定性原理は、古典論の見地から量子論を特徴付ける性質として、その重要性は広く認められるところです。その研究は、現在までの一世紀ほどの間に大きく進展し、当初論じられた範疇を越えて、量子世界における多様な代償関係の存在が見出されています。本研究では、研究代表者による不確定性原理の普遍的な定式化について、系の対称性の存在の含意するところや、情報論的な見地からの解析など、その整備と敷衍を進めました。 2)擬確率分布の分類とその特徴付け:不確定性原理の一つの帰結として、非可換な量子的な物理量の組は、一般にはその測定結果を同一の文脈で記述することが禁じられます。ところが、ウィグナー分布に代表されるように、これらに対する「仮想的な結合分布」である(一般には負値や複素数値の)擬確率分布を様々に構築することが可能であり、それ自体が理論的な興味対象であるのみならず、量子系の解析に際する技術的な有用性も知られています。本研究では、研究代表者による「量子化」と「擬測定」との双対的な構造の定式化に立脚して、各種の擬確率分布の有用な性質の分析を行い、その分類や特徴付けを探りました。 3)開放量子系における非マルコフ過程とその可逆・不可逆性:理想的な孤立系の時間発展はマルコフ的であると考えられますが、現実の系は外部と何らかの相互作用をする開放系であり、その時間発展は一般には非マルコフ的です。とりわけ量子系における時間発展は、不確定性原理の帰結による各種の制約の存在からも、古典系におけるそれとは異なる構造を持ち、現在注目されている研究対象の一つとなっています。本研究では、量子系における非マルコフ過程について、とりわけその可逆・不可逆性の観点からの特徴付けの可能性を探りました。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度における研究の進捗状況は次の通りです。 1)不確定性原理の普遍的定式化:本研究課題については、本年度は当該定式化について、上述の通りその整備と敷衍を進めました。またとりわけ、量子系に対する非自明な観測(測定)行為が不可避的に被観測系を乱す「観測(者)効果」の不確定関係について、特に量子的な物理量の局所的な表現可能性にまつわる研究成果をプレプリントとして公表し、学術専門誌への掲載に向けて作業を進めました。 2)擬確率分布の性質の分析とその特徴付け:本研究課題については、本年度は二準位および三準位量子系に対する解析を行い、また一般の有限次元系に対しても幾つかの示唆的な結果が得られました。現在、その結果を論文にまとめており、学術専門誌への投稿や学会における発表など、公表に向けての準備を進めています。 3)開放量子系における非マルコフ過程とその可逆・不可逆性:本研究課題については、本年度は主に二準位量子系に対する分析を行い、また併せて解析手法の開発を進め、一定の中間的成果を得ました。 本研究事業に関する今年度の進捗は、以上の事由に鑑みて概ね計画の通り順調であると考えています。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究事業においては、理論研究の大枠は当初の計画に沿って進展していることから、今後の推進方策についても、当初のものに大幅な変更を加える必要はないものと見込まれます。但し、一部の研究課題については得られた成果の公表が遅れていることから、その速やかな公表を進めるため、次年度以降はその作業に一つの重点を置くことを計画しています。また、近年の大きな社会情勢の変化に伴って規模が縮小していた学会・研究会等も、これが回復の兆しを見せていることを受けて、本研究で得られた成果について、より一層の周知を進められることも期待されます。
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