2022 Fiscal Year Research-status Report
磁性トポロジカル絶縁体薄膜における新規量子輸送現象の探索
Project/Area Number |
22K13988
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
佐藤 雄貴 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (90909219)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | トポロジカル絶縁体 / 薄膜 / 超伝導 / 創発インダクション / 磁性 / BCS-BECクロスオーバー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではトポロジカル絶縁体Bi2Te3薄膜を基にした超格子を作製し、磁化ダイナミクスに起因した創発インダクション効果や、超格子構造における磁気構造を緻密に制御することで現れるアクシオン絶縁体状態において理論的に提案されている電気磁気効果の観測を目指している。当該年度ではこれらに加えて、Se元素を含む分子線エピタキシャル蒸着装置を新たに立ち上げ、(1)トポロジカル超伝導体Fe(Se,Te)の薄膜作製と(2)トポロジカル絶縁体薄膜との接合系Bi2Te3/Fe(Se,Te)の作製に取り組んだ。 (1)ではMBE法によるFe(Se,Te)薄膜の成長条件と、超伝導特性に与える影響を系統的に調べた。その結果Se, Teの各元素フラックスの仕込み値を制御することで膜中の化学組成を全域にわたって制御可能であることが分かった。またパルス強磁場を含む上部臨界磁場の測定から、膜中にTeを増やすとパウリ対破壊効果がどの磁場印加方向においても支配的になることが分かった。このことはこの系においてボーズアインシュタイン凝縮の特徴が極めて強く現れた超伝導状態が実現している可能性がある。 (2)では最適条件で成長させたFe(Se,Te)薄膜の上にBi2Te3を積層したヘテロ構造の作製に成功した。このような界面ではトポロジカル絶縁体の表面状態が超伝導近接効果によって2次元トポロジカル超伝導を発現していると考えられる。このような界面では強い空間反転対称性の破れに起因した非相反輸送特性が現れることが知られている。Fe(Se,Te)薄膜の膜厚を制御して非相反特性を評価したところ、膜厚が薄くなるにつれて超伝導の2次元性が強くなり、それに伴い非相反性が増大する様子が観測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度ではトポロジカル超伝導体を作製することを目的として、MBE法によるFe(Se,Te)薄膜と、さらにトポロジカル絶縁体との接合系の作製に成功している。基板上に薄膜成長させた結晶は基板との相互作用から構造不安定性などが弱まる傾向があり、実際我々の作製したFeSeではバルク単結晶で観測されている電子ネマティック相への明確な相転移が観測されていない。今回我々の作製した薄膜でTcの組成依存性がバルクと大きく変わったのは、ネマティック揺らぎの抑制などが原因として考えられるため、薄膜化することで初めて得られた知見と言える。また全組成領域において相分離等なく結晶成長が出来ることがわかり、特にTeが濃い領域においてもTcが高くとどまっていることが分かった。Teが濃い組成では強いスピン軌道相互作用によりトポロジカル超伝導としての特徴が顕在化する可能性があり、これらの成果は当初の計画からは予期せず得られたものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はパウリ対破壊効果が支配的な超伝導体において現れることが期待されるBCS-BECクロスオーバー領域の量子凝縮相特有の物理現象を探索していきたいと考えている。さらに研究計画で挙げたトポロジカル絶縁体と強磁性体の接合系における創発インダクション効果に関する研究も並行して行いたい。
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Causes of Carryover |
初年度に購入を計画していたロックインアンプについて、これまでに所属研究室内で別の研究者が保有する複数の異なる装置を用いて創発インダクション効果の測定を行っていたが、測定系において異なる大きさのバックグラウンドシグナルが生じることが分かった。この原因解明にしばらく時間を要しており、どの機材がこれから作製する予定の試料のシグナルを測定するのに最適か判断することが前年度中にはできなかったことが次年度使用額が生じた理由である。
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