2022 Fiscal Year Research-status Report
X線照射をした有機超伝導体を用いたFFLO超伝導安定性に対する乱れ効果の観測
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22K13995
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
杉浦 栞理 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (20869052)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 超伝導 / 有機伝導体 / FFLO / 低温物性 / 強磁場 / 輸送測定 / ランダムネス |
Outline of Annual Research Achievements |
ゼーマン効果によって超伝導クーパー対が壊れる磁場(パウリ極限)を超えてもなお安定化できるFulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov(FFLO)超伝導は、BCS超伝導の枠組みを超えた「エキゾチック超伝導」として盛んに研究されている。このFFLO状態に対する電子系の乱れの効果を明らかにすることを目的とした本研究において、本年度はまず乱れを人為的に導入した試料の作成と、乱れの定量的評価を行った。試料にはFFLO状態を低温・強磁場に持つ有機超伝導体κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2を、乱れの導入には試料へのX線照射を用いた。X線照射は有機伝導体を構成する分子のうちC-N結合に結合欠陥を生じさせることで有効的な乱れポテンシャルを電子系へもたらすことができる。それぞれ0、100、200,300,400時間照射を行った試料を作成し、四端子法電気抵抗測定によってゼロ磁場下における超伝導転移温度、量子振動(Shubnikov-de Haas振動)、および面平行磁場下における臨界磁場の観測を行った。 実験の結果、照射時間の増加に伴い転移温度が低温へシフトし、電子の散乱時間が減少することが分かった。詳細な量子振動の解析からは300時間照射を行った試料の散乱時間は0時間試料の3分の1まで短くなり、400時間試料では量子振動が観測されなくなることが分かった。さらに超伝導層に対して平行に磁場を印加した状態における電気抵抗の磁場依存性からは、照射時間の増加に伴い臨界磁場が急激に減少することが分かった。この減少度合いは転移温度の減少から見積もられる臨界磁場の減少よりもはるかに大きく、乱れの導入によって強磁場超伝導相が強く抑制されていることを示している。この結果から、本年度では人為的に導入した乱れによる臨界磁場の減少を散乱時間によって定量的に評価することが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、試料への乱れの導入と量子振動を用いた定量的評価に成功した。また超伝導面に平行に磁場を印加した強磁場中において、電気抵抗を用いた臨界磁場の評価にも概ね成功しており、研究は順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
乱れを導入した試料における熱力学量測定に取り組む。現時点で明らかになっているのは臨界磁場の乱れ依存性のみであるが、磁気トルク測定等によって超伝導相内のFFLO転移の観測によって、次年度はFFLO相が乱れに対してどのように抑制されていくかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
物流の停滞によって国外から輸送される購入予定物品の年度内納品が難しい状況となったため、研究の遂行に支障のない範囲で物品購入を次年度初旬へ繰り越した。
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Research Products
(7 results)