2023 Fiscal Year Research-status Report
X線照射をした有機超伝導体を用いたFFLO超伝導安定性に対する乱れ効果の観測
Project/Area Number |
22K13995
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
杉浦 栞理 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (20869052)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 超伝導 / 有機伝導体 / FFLO / 低温物性 / 強磁場 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゼーマン効果によって超伝導クーパー対が壊れる磁場を超える強磁場中においてもなお安定化できるFulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov(FFLO)超伝導は、「エキゾチック超伝導」と呼ばれるBCS超伝導の枠組みを超えた特異な超伝導の一つとして盛んに研究されている。軌道対破壊効果の抑制、および電子系のクリーンさが相の発現に必要とされるFFLO状態に対して、電子系の乱れの効果を明らかにすることが本研究の目的である。 本年度は乱れを人為的に導入した試料の強磁場相図を明らかにするため、面内および面間四端子法電気抵抗測定および面内へ縦波を導入した超音波測定から臨界磁場およびFFLO転移磁場の観測を試みた。実験にはFFLO状態を低温・強磁場に持つことが知られる有機超伝導体κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2へX線によって乱れを導入した単結晶試料を用い、前年度の成果でもある量子振動観測から定量的に乱れを評価した。 実験の結果、X線照射による乱れポテンシャルの導入によって電子の平均自由行程を未照射のピュアな試料に対して1/3程度まで小さくした試料では、乱れの増大よる転移温度の減少から予想される臨界磁場の減少よりもはるかに大きな臨界磁場の抑制が観測され、超伝導相内でのFFLO転移に特徴的な音速の磁場依存性に表れるDip構造も観測されなかった。また照射時間を様々に変化させた試料における超音波測定から、平均自由行程が面直磁場中における臨界磁場から見積もったコヒーレンス長と同程度となる照射時間を境にFFLO相が消失することを示唆する結果が得られた。この結果はおおよそコヒーレンス長で与えられるFFLO状態での実空間における秩序変数振動周期程度で散乱のない電子系がFFLO状態の発現に必要であることを系統的かつ人為的な乱れの導入から初めて実験的に示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、昨年度のX線照射によって系統的かつ人為的に電子系へ乱れポテンシャルを導入した試料における量子振動観測から見積もった平均自由行程による乱れ量の定量的評価を用いて、乱れを含む試料における強磁場相図を明らかにすることができた。またFFLO超伝導状態が、平均自由行程がコヒーレンス長程度になったところで消失することを示唆する結果を得ることもでき、研究は順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画していた研究課題は概ね達成された。FFLO状態が消失する乱れ量を平均自由行程によって定量的に示した本研究結果は、実験的のみならず理論的なFFLO研究においても重要な結果であり、近年急速に裾野をひろげつつあるFFLO状態のより詳細な理解に大きく貢献できると考えられる。そこで今後は、本研究結果を専門的かつ重要な位置づけにある各国際会議で発表することを予定している。 さらに本年度取り組んだ超音波測定からは、横波の導入によってFFLO状態における実空間におけるノード構造を明らかにできる可能性が新たに見えてきたため、これを発展的課題としてさらに詳細かつ精密な異方性制御下での実験に取り組むことを付加的に計画している。
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Causes of Carryover |
本年度までに得られた研究成果が研究計画作成当初に想定していたインパクトを上回るものであると考え、その発表をより重要度が高と考えられる研究領域で最も大きな隔年開催の国際会議で行うよう研究計画を修正した。よって、本年度使用予定であった会議参加旅費を次年度へ繰り越すため、次年度使用額が生じている。
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