2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K14010
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
鬼頭 俊介 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (20887327)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 電子軌道 / 放射光 / X線回折 / パイロクロア格子 / スピン-軌道相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
4d, 5d, 4f電子系では相対論的スピン-軌道相互作用の影響がその物性に顕在化することがある。この結果、スピンと軌道の自由度が絡み合い電子密度を再構成することで、多極子秩序を形成し、トポロジカル伝導相や磁気スキルミオンなど魅力的な量子物性現象の舞台を提供する。しかし、これまで「隠れた秩序」と呼ばれる多極子秩序状態を電子密度分布として実空間で観測した例はなかった。本課題では、申請者が独自に確立した放射光X線回折を用いたコア差フーリエ合成法による電子密度解析を用いることで、多極子秩序の実空間観測を目指す。 2022年度はSPring-8のBL02B1ビームラインにて、遷移金属(M=Mo, Ir)が異なる2種類のパイロクロア型酸化物R2M2O7 (R=希土類元素)の単結晶X線回折実験を行った。4d遷移金属を含むNd2Mo2O7ではMoサイトにおいて4d軌道の価電子密度分布の観測に成功した。得られたMoサイトの価電子密度から4d^2軌道状態の決定に成功した。さらに、動径方向に1次元プロットすると中心から0.2Å付近にディップ構造が現れており、4d波動関数のノードに対応していることが分かった。一方、Ndサイトにおいても特徴的な価電子密度分布が観測されたが、この異方性は単純なスピン-軌道相互作用と結晶場を考慮した計算結果と一致せず、酸素との軌道混成が比較的強く存在する可能性が示唆された。 伝導性が大きく異なるものの同じ結晶構造を有するEu2Ir2O7とPr2Ir2O7ではIrサイトにおいて異方性が大きく異なる5d^5電子に対応する価電子密度分布の観測に成功した。この違いについては第一原理計算も含めて現在検証中である。一方、希土類元素のEuとPrサイトにおいても価電子密度分布の観測に成功し、スピン-軌道相互作用と結晶場を考慮した計算結果とよく一致することが分かった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、本課題の目的の1つである、多極子状態を形成する4f電子の観測に成功した。一方、スピン-軌道相互作用と結晶場を考慮した計算結果と整合しない異方性が観測される物質も存在した。本課題で提案する研究手法が多極子状態の観測に対して有効であることが分かってきたため、2023年度はより低い対称性や特異な物性を示す物質に対象を拡大する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
対象物質を広げて価電子密度観測を行うだけでなく、申請時の予定どおり、得られた情報を基に非弾性X線散乱、共鳴X線散乱などの構造物性研究手法を駆使して多角的にその軌道状態を調べる予定である。
|
Causes of Carryover |
複数の実験装置の購入予算を計上していたが、納品時期が年度を跨ぐ可能性があったため、今年度は使用しなかった。想定していた海外出張もコロナウイルスの影響で実施しなかったため旅費は使用しなかった。論文投稿費用を計上していたが、未だ査読中のため使用しなかった。
|