2022 Fiscal Year Research-status Report
Control of negative ion beam focusing and identification of origins of multiple velocity distribution components within a negative ion beam
Project/Area Number |
22K14023
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
波場 泰昭 日本大学, 生産工学部, 助手 (60908789)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 負イオン源 / ビーム / 位相空間 / 速度分布 / 集束性 / 核融合 |
Outline of Annual Research Achievements |
表面生成を起源とする水素負イオンの集束性を制御するパラメータを同定するために、研究代表者が所属する日本大学の生産工学研究所で、小型負イオン源及び診断用ビームラインを構築した。2022年度、当該装置を構成する真空容器の設計・開発・据付、及び負イオン源内でのフィラメント・アーク放電の実証が完了した。負イオン源側は10kV級の高電圧領域になるため、充分な耐圧を有する絶縁トランスを導入すると共に、高電圧領域を絶縁体で遮蔽する装置構成とした。また、窒素パージ系統、負イオン源への水素ガス導入系統、真空容器内の排気系統、圧力測定系統、及びコンダクタンスバルブを用いた負イオン源とビームラインとの圧力制御系統を構築した。負イオン源内で水素プラズマを生成するための電源系統、ビームライン領域で負イオンを加速させるための電源系統の構築も完了した。 また、核融合科学研究所の研究開発負イオン源から引き出された単一のビームに内在する複数のビーム成分に対して、ビーム径方向における速度分布の全貌を実験的に明らかにする手法を確立した。さらに、実験的に取得された離散的なビーム位相空間構造を、連続的な位相空間構造として再構成する手法を提示した。実験結果に基づいて再構成された位相空間構造は、時間反転させたビーム軌道の数値計算に対する入力値を与える。当該数値計算により、ビーム引出界面の近傍領域における負イオンの密度分布や速度分布を実験結果に基づいて評価することが可能となった。負イオンビームに内在する複数の速度分布成分の起源を同定するための重要なパラメータとして、各成分の含有率を提示すると共に、その評価手法を確立した。本研究成果は、米国物理学協会の学術誌AIP Advancesで報告され、Featured Articleとして選出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新規に負イオンビーム実験装置を立ち上げると同時に、共同研究を通じて表面生成を起源とする負イオンのビーム集束特性について新たな知見を得ることができ、本研究課題に対する初年度の研究として十分な成果を残すことができた。負イオン源及びビームラインを構成する真空容器の設計ではFusion360を用いて効率的に図面製作を進め、製作時には高品質かつ低価格でステンレス加工していただける業者からの協力を得ることができた。同様に、ビーム計測器の設計・開発も円滑に遂行することができた。据付時には研究代表者が所属する日本大学の生産工学部の大学生・大学院生との共同作業により、申請書に記載した計画の通り、順調に新たな装置の構築を行うことが可能となった。 共同研究では、ビーム径方向の速度分布関数を実験的に評価するために、新たなコード開発に成功した。負イオンビームに内在する複数の速度分布成分が固有に持つ速度分布関数、発散角、及び含有率を実験的に評価することが可能となった。また、実験的に取得したビーム位相空間構造に対して、カーネル密度推定法を用いて連続的な位相空間構造として再構成する手法を確立した。これにより、各速度分布成分の位相空間構造やエミッタンスを定量的に評価することが可能となった。この粒子情報を入力値として、ビーム軌道の時間反転計算を行い、ビーム引出界面の近傍領域における負イオンの密度分布や速度分布が調査可能であることを実証した。この成果は、英国物理学会の学術誌Nuclear Fusionで報告された。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、以下に示す三つの推進方策に基づき、本研究を遂行する。第一に、ビーム位相空間構造計測器をビームラインに導入し、それを用いて負イオンビームの位相空間構造及び径方向ビーム速度分布関数の実験的な評価を行う。当該実験では、ビーム加速器電極系における初段電極(プラズマ電極)の幾何構造を変化させながら、位相空間及び速度空間におけるビームの挙動を調査する。第二に、SIMIONを用いて粒子ビーム軌道の数値計算を行い、その結果と実験結果とを比較する。これにより、数値計算と実験結果との相関・整合性を検証する。第三に、核融合科学研究所との共同研究を継続し、セシウム添加型負イオン源から引き出された負イオンビームに対してビーム電流分布計測及び位相空間構造計測を実施する。当該実験では、セシウム添加量の変化に対する負イオンビームに内在する複数速度分布成分の発散角・エミッタンス・含有率・挙動の変化について実験的な評価を行う。 以上の推進方策で本研究を遂行し、その過程で得られた知見を投稿論文として報告を行う。特に、ビーム計測実験に基づいて再構成された連続的な位相空間構造を用いて、表現生成を起源とする負イオンのビーム集束性を決める候補パラメータを抽出する。この知見に基づき、本研究課題遂行の最終年度である2024年度は、日本大学生産工学研究所の小型負イオンビーム実験装置と核融合科学研究所の研究開発用負イオン源とを相補的に用いて、表面生成を起源とする負イオンビーム成分の集束性を制御するパラメータを同定する。
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Causes of Carryover |
本研究で新たに開発する負イオン源には10kV級の高電圧がかかるため、数10万円を必要とする絶縁トランスを新規に購入する算段であったが、現有の資材を組み合わせることで充分な耐圧を有する絶縁トランスを製作することができた。これにより、2022年度の支出額が申請額に比べて低減された。2023年度は、ビーム計測実験に対する比較・検証を行うために、粒子ビーム軌道のシミュレーション計算を行う。当該シミュレーション計算に必須となるコード開発・運用費として差額を補充する。
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