2022 Fiscal Year Research-status Report
細胞内水分子ダイナミクスの測定による細胞の凍結保護メカニズムの解明に関する研究
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22K14190
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松浦 弘明 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (50847994)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | バイオ熱工学 / 誘電分光 / 水分子ダイナミクス / 細胞凍結保存 / 物質輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主な成果を以下に挙げる. (1) 細胞内水分子のスローダイナミクスに関する検討: スクロース水溶液に懸濁したヒト由来Jurkat細胞の誘電分光では, 水分子由来の緩和が2つのDebye型の重ね合わせとして表されることがこれまでの研究で分かっていたが, それらに対応する2つの緩和時間の比について, リゾチーム(タンパク質)水溶液に関する分子動力学(MD)シミュレーションの結果との比較を行った. この結果, 2つの緩和時間の比は同程度であり, またその濃度依存性についても同様の傾向がみられ, 細胞内水分子についての2つのDebye緩和のうち低周波側のものが, 細胞内の生体高分子等との相互作用により遅いダイナミクスを示す水分子を特徴づけることをサポートする知見が得られた. (2) イースト細胞に対する誘電分光: モデル細胞として用いてきたヒト由来Jurkat細胞のほかに, イースト細胞に対しても誘電スペクトルの取得を行った. この結果, ヒト由来Jurkat細胞と同様に水分子由来の緩和が2つのDebye型緩和の重ね合わせとして表されることを明らかにした. (3) 深共晶溶媒の分子ダイナミクスおよび物質輸送の測定に関する検討: 生体分子の安定化作用が期待され, 細胞凍結保護物質としての検討も行われ始めている深共晶溶媒について, 誘電スペクトルの取得および物質輸送の測定に関する検討を行った. 塩化コリン-エチレングリコール, 塩化コリン-グリセロールの誘電分光では, Kramers-Kronigの関係を用いることで導電率成分の寄与がない誘電率虚部スペクトルを得る手法が効果的であることを示した. また, 光学的物質輸送センシング技術であるソーレー強制レイリー散乱法を用いて深共晶溶媒の信号を取得するための測定パラメタの検討を行い, 物質拡散由来の信号を取得する方法を確立した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞に関する誘電スペクトルの取得・解析方法が確立され, 細胞内の水分子のスローダイナミクスの理解に寄与する知見が得られてきているため。
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Strategy for Future Research Activity |
保護物質の種類と濃度・温度等の測定領域を拡大し, 知見を深化する.
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Causes of Carryover |
対面で参加予定だったシンポジウムがオンライン開催となったため次年度使用額が生じたが, 次年度に国内・国際会議発表を積極的に行い, 有効に使用する.
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