2022 Fiscal Year Research-status Report
表面電荷密度マッピングが切り拓く相界面ナノフルイディクス
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22K14193
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
手嶋 秀彰 九州大学, 工学研究院, 助教 (60906220)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ケルビンプローブフォース顕微鏡 / 接触線 / 帯電 / 表面電荷密度 / 固液界面 |
Outline of Annual Research Achievements |
相界面や接触線は、固体―液体―気体の各相が相互作用しあうため実験的調査が困難であり、その工学的重要性にもかかわらず多くの物理が未解明である。特に固液界面・接触線の帯電現象は流動発電といったグリーンエネルギーと密接にかかわるが、どういった条件で・どのような帯電状態になるか、何もわかっていないと言っても過言ではない。 本研究では、表面電位を計測できるケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)を基軸として、ナノスケールの流体現象の物理を解明することを目的としている。本年度は、液滴近傍の固気界面の帯電状態の観察を行った。具体的には、厚さ300nmの熱酸化シリコン膜がついたシリコン基板上にグリセロール液滴を滴下し、その接触線近傍をKPFM計測すると、周囲100マイクロメートルにわたって最大1.0Vほど負に帯電する領域があることがわかった。これは平行平板間コンデンサモデルで表面電荷密度に変換するとおよそ-56μC/m2で、電子数密度では350個/μm2である。液滴を動かすと帯電領域も一緒に移動することから、単純な固液摩擦帯電とは異なる物理が働いていることが推測される。さらに、三相接触線をまたいだ固液界面・固気界面の同時電位計測を可能にする架橋グラフェンセルの実験準備も行った。当初はマイクロポーラスTEMグリッドにグラフェンを転写する予定であったが、実験手順の簡素化のために市販の単層グラフェンフィルムTEMグリッドで代用した。厚み0.335nmの極めて薄い架橋グラフェン膜でありながら、計測パラメータを慎重に調整することで、探針で貫くことなく計測できる技術を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り接触線近傍のKPFM観察が行えており、固気界面でのみ見られる特異な帯電現象が観察できている。またKPFMの生データである探針-基板表面の電位差を固体表面の表面電荷密度という意味ある定量値に変換する手法も確立できている。架橋グラフェンセルの開発も順調であり、接触線の帯電状態を測る実験環境が構築できている。これらの結果からおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
湿度やグリセロール液滴内部の水分量、熱酸化シリコン膜の厚み、シリコン基板のドープなど実験条件を変化させることで、接触線近傍の帯電現象のメカニズムを明らかにする。また架橋グラフェンセルを用いて三相接触線を横断した表面電位・表面電荷密度マッピングを実現することで新たな知見を得る。具体的な手法として、蒸発と凝縮を利用してグラフェン上にナノ液滴を形成し、その帯電状態を観察する。液滴直径と帯電状態の関係から、電気二重層より薄い液膜領域での帯電機構も調査する予定である。
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Causes of Carryover |
当初グラフェン転写を試行錯誤することで作製する予定だった架橋グラフェンセルを市販品で代用することができたため当該助成金が生じた。その分をKPFM探針やシリコン基板の購入に充てることで、より広い実験条件で計測し帯電のメカニズムの解明を目指す。
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Research Products
(1 results)