2022 Fiscal Year Research-status Report
A study of a new method for data-driven modal analysis of power systems with power electronics distributed generators as the main power sources
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22K14246
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
平瀬 祐子 東洋大学, 理工学部, 准教授 (50843778)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | データ駆動 / モデル / インピーダンス / マイクログリッド / 共振 / 安定性 |
Outline of Annual Research Achievements |
カーボンニュートラル社会を実現するために,再生可能エネルギー由来の電源(再エネ電源)の普及が拡大している。再エネ電源を接続するときに使用する系統連系インバータと呼ばれるパワエレ機器は,従来の同期発電機とは異なり高速で複雑な制御を持つため,再エネ電源の普及によって,機器間や機器と系統との間に,幅広い周波数帯域において共振現象が発生すると報告されている。このため,パワエレ機器が電力系統に与える影響を正確に計測し制御する必要があるが,従来の線形数式モデルベース手法を用いることは困難である。 そこで従来のモデルベース解析に替わる手法として,データ駆動型の解析に関する研究が注目されている。本研究の1年目となる2022年度には,データ駆動型解析として2種類の手法を検討した。1つ目はEMD(Embed Mode Decomposition)と呼ばれるモード解析手法で,非定常かつ非周期的な信号の解析を可能にする,改良手法について検討を行った。2つ目は,システムを特定箇所で二分し,その左右のインピーダンスバランスで安定性を判別するインピーダンスベース解析手法で,分散電源の比率が支配的となる大規模系統のシミュレーションモデルを作成し,従来電源群と分散電源群との間の共振現象の可能性についての検証を行った。 さらに,実験室規模の実マイクログリッド(MG)を構築し,実際にインピーダンス解析を行うために必要となる摂動電源や,摂動信号注入回路構築における制約,ノイズに対する信号強度 (S/N) 比について明らかにし,MGで実際にインピーダンスベース解析を行うための基盤を完成させた。2年目以降は,これを拡張し,電源の機器定数や制御変数を変更することで様々な動作点を想定し,安定性の変化および不安定現象の回避などに必要なチューニングを行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は様々なデータ駆動型解析手法を比較検討または組み合わせて実施する予定であり,その中でも有望な2つの手法,EMD(Embed Mode Decomposition)と呼ばれるモード解析手法とインピーダンスベース解析手法をピックアップした。 EMDに関する研究では,先行手法の改良手法を確立して成果を上げることができ,おおむね順調に進展または当初の計画以上に進展したと言える。しかし,考案したアルゴリズムを本格的にアプリケーション化するためには,プログラム処理に関する高性能機器およびマンパワーが必要であるが,現時点ではこれらの入手目途が立たないため,本研究の主目的となるアルゴリズムの考案が終了したこの時点において,EMDに関する研究は一旦保留とすることにした。 一方のインピーダンスベース解析においては,シミュレーション結果の妥当性を評価するために,数学的な解析との一致を得ること,あるいは,実証試験結果との一致を得ることなどが必要である。本研究ではまず,比較的シンプルな系統構成の数式モデルを算出し,数学解析結果とシミュレーションによる数値解析結果との一致を得て妥当性を得ることができた。また,実証試験結果との比較を行うためには,機器を入手し実験環境を整える必要がある。今年度は実験室規模のマイクログリッド(MG)を構築して,摂動電源や摂動信号注入回路を構築する際の制約,および解析に必要とされる,ノイズに対する信号強度 (S/N) 比等について,課題の洗い出し等を行った。これについても,おおむね順調に進展または当初の計画以上に進展したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
近年の電力系統には,制御手法も製造メーカ毎に異なる様々な系統連系インバータが接続されている。それらインバータ間の共振を回避し,各インバータの機能を活かすため, Grid code などでインバータの特性を規制する動きが世界各国に見られる。海外では,低周波から高周波の幅広い帯域での振動現象を早くから経験し,電源メーカや送配電事業者に対してインピーダンスデータの提出やインピーダンス解析を義務付ける動きがみられる。一方で日本においても,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)主導で電力系統安定化のための様々な研究 (STREAM プロジェクト等)が継続して行われているが,これは慣性力低下に関する低周波帯域の課題に焦点が置かれている。しかし将来的には,低周波帯域に限らず幅広い帯域での課題が明らかになり,同様の規制(インピーダンスベース解析の義務化等が検討される可能性が高い。そうなった場合に,電源メーカが速やかに市場に参入し,かつ送配電事業者が混乱なく規制を運用開始することが求められ,机上の理論だけではない,実務レベルでの安定化指標が必要となるはずである。 そこで今後は,本年度構築したマイクログリッド(MG)内に接続される機器を拡充し,実験室規模を,より実際の電力系統に近い規模まで拡大することを目指す。また,様々な機器の様々な運用形態を洗い出し,あらゆるケースにおいても系統全体が安定かつ強靭であるために各電源に必要とされる,インピーダンス量の指針を得ることを目標とする。あるいは,どうしても不安定点が避けられない状況を解析により特定し,系統運用が始まる前にその状況を回避する対策を講じるガイドラインを作成する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では,シミュレーションによって解析手順を把握し,直ちに実験環境を構築して実験を行う予定であったため,機器購入費等に140万円を計上していた。通常は,アルゴリズムの基本となる数学解析,シミュレーションで行う数値解析,そして実証試験結果の整合を得ることで,数学的理論が正しく実装されていると証明されるが,インピーダンス解析の分野では,先行研究を調査したところ,数学解析の基礎となる理論を得ることが難しいことに加え,実証試験環境の構築にも様々な制約があることが判明した。そこで初年度は,文献調査やワークショップなどによる情報収集を重点的に行い,現有機器を用いたシミュレーションによる数値解析の精度を上げることに注力した。数値解析結果の妥当性がある程度得られたところで,実証試験環境の構築に取り掛かったが,まずは現有器を使用したマイクログリッド(MG)サイズとしたため,当該年度の所要額と実支出額とに差が生じる結果となった。次年度にはこれを利用し,可能な限り現実に近い実験環境を構築し,電源の運転状態やパラメータを変更するなどして,様々なデータ収集を行う予定である。摂動電圧を注入するための変圧器,弱い系統を模擬するためのインダクタ,摂動信号発生用のコントローラなどを新規に購入予定である。
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