2022 Fiscal Year Research-status Report
気温で近赤外光透過率を変える遮熱材の開発:温度応答性高分子構造と凝集粒子径の関係
Project/Area Number |
22K14370
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
中村 彩乃 秋田大学, 理工学研究科, 助教 (70780980)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 温度応答性高分子 / 遮熱材 / ヒドロゲル / 太陽光制御 / 省エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
温度応答性高分子であるセルロース由来のヒドロキシプロピルセルロース (HPC)をアクリルアミド(AAm)と架橋剤を用いて合成したヒドロゲル内に埋め込んだHPC/AAmゲルを作製した。なお、HPCのLCSTは40-48℃であるため、塩化カルシウムを加えてLCSTを30℃付近まで低下させた。ここでは分子量の異なるHPCを用いてHPC/AAmゲルを作製した所、LCST以下での日射透過率は分子量に関わらず約85%と高い一方、LCST以上では分子量の小さいHPCを用いたヒドロゲルの日射透過率が約20%まで低下し、日射反射率が増加することが分かった。また、26×30×27 cmの箱(発砲スチロール)にガラス2枚にHPC/AAmゲルを挟み込んだサンプルを設置しハロゲンランプを照射すると、ゲル未使用の場合と比較して箱内温度を10℃下げることに成功した。 LCST以上でのHPC/AAmゲル中のHPCの収縮状態を評価するため、蛍光試薬を加えたHPC/AAmゲルを共焦点レーザー顕微鏡で観察した所、HPCの凝集した粒子径は分子量が小さいほどわずかに大きくなることが分かった。これは、分子量の小さいHPCはAAmゲルの骨格に阻害されることなく自由に移動できるためと考えられる。なお、顕微鏡画像から求めた凝集粒子半径rを使い粒径パラメータx(x = 2πr/λ、λ: 波長)を計算すると全てのHPC凝集粒子径においてミー散乱が起こっていることが分かった。更に透過率の違いについて調査するため、HPC/AAmゲルを凍結乾燥したサンプルを用意し、SEM観察すると分子量の大きいHPCを使用したゲルでは多数の大きな細孔が見られたのに対し、分子量の小さいHPCでは細孔が小さく、且つ少ないことが分かった。このことから、HPC/AAmゲル中で形成されるHPCの凝集状態が光の散乱に影響を及ぼしていることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、温度応答性高分子の分子構造、LCST以上でのゲルの凝集粒子径、波長領域300-2500 nm(特に近赤外光領域)での透過率との関係を明らかにすることが重要である。2022年度はヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を用いて濃度や分子量を変えてHPC/AAmゲルを作製し、共焦点レーザー顕微鏡画像やSEM画像からゲル中で形成されるHPC凝集粒子径や乾燥ゲルの構造に違いがあることが分かった。また、紫外可視近赤外分光光度計(積分球付)を用いてHPC/AAmゲルの透過率や反射率を測定すると、分子量の違いに応じて変化することが分かった。これらの結果から、HPCの分子量の違いよってLCST以上で形成される凝集状態が変わり、透過率や反射率に影響を及ぼすことが確認された。また、直鎖構造を有する温度応答性高分子であるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド) (PNIPAM)についてもHPCと同様に分子量を変え、PNIPAM/AAmゲルを作製しており、分子量によって透過率やゲル中のPNIPAM凝集粒子径が変化することも既に明らかにしている。このことから、研究は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 2022年度に引き続き異なる分子量のPNIPAMを用いてPNIPAM/AAmゲルを作製し、透過率とゲル中のPNIPAM構造との関係を明らかにする。またPNIPAM/AAmゲルの遮熱効果についても評価する。 (2) さらに、NIPAMモノマーにジエチルアクリルアミドモノマー等を共重合させたときの透過率やゲルの構造を調査する。*ポリ(N-ジエチルアクリルアミド)はLCSTを32℃に有する温度応答性高分子である。 (3) 2種の温度応答性高分子(まずはPNIPAMとHPCを検討)を混ぜたAAmヒドロゲルを作製し、2022年度と同様に透過率、凝集粒子径、ゲルの構造の関係を調査していく。 (4) HPC/AAmゲルおよびPNIPAM/AAmゲルの耐熱試験および紫外線照射試験を行い、耐候性を評価する。
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