2022 Fiscal Year Research-status Report
標準設計による「アパート」の建設状況とその現況に関する研究
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22K14410
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
堀内 啓佑 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員 (20912695)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 標準設計 / アパート / 戦災復興 / 都市不燃化 / 公営住宅 / 住宅公団 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、標準設計を用いた「アパート」の建設状況や現況を把握することによって、日本の都市不燃化の様相の一端を解明するとともに、これらのアパートの史的重要性を再評価することを目的とする。 研究初年度にあたる本年度には以下の二点に取り組んだ。 第一に、地方自治体の住宅関連の史料を幅広く蒐集し、標準設計を用いたアパートの建設状況を整理した。とりわけ、北海道・東京・神奈川・大阪・兵庫・福岡については、『住宅年報』などの史料を用いることで、住宅団地の名称や建設年代、建設戸数などの基礎的情報が把握された。なかでも、東京や大阪の一部においては、各住宅団地に採用された標準設計の形式や建設戸数についても、ある程度一元的に把握することができた。 第二に、現存事例の建設状況の解明を進めた。本研究で主たる対象とする、戦後復興期に建設されたアパートに関しては、すでにその多くが解体、建て替えを終えていると推測されるが、本年度には現存事例の一つである旧芦屋市営宮塚町住宅の建設経緯の把握に取り組んだ。この宮塚町住宅については、これまでに、本来コンクリートブロック造を想定した標準設計52FC型でありながら、石材の組積構造が採用されていることを明らかにしていた。本年度にはさらに、関連図面をもとにした構造形式の分析や、当時のセメント価格の推移の整理、「不燃住居構造」の開発状況の把握などの作業に取り組み、宮塚町住宅の構造形式と建設経緯に関してより精緻な考察を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、主要都市のみにとどまらず、地方都市を含むより広い地域を研究の対象としている。本年度には、主要都市に関する史料については順調に蒐集作業を進めることができたが、地方都市に関しては、蒐集すべき史料がきわめて多いことや、史料内でのアパートについての記述が限定的であるなどの理由から、史料の蒐集や分析に想定以上の時間を要した。このため、標準設計アパートの建設実態の一元的な整理作業においては若干の遅れが生じている。その一方で、現存事例に対する調査作業については、本年度の作業として旧芦屋市営宮塚町住宅を対象とした調査を見込んでいたが、順調に研究を進めることができた。この宮塚町住宅に関する研究で得られた成果については、二年度目の前期末頃までに査読論文として投稿することを計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
二年度目には、一年度目において調査が不十分であった自治体を対象に、より詳しい文献調査を実施する。さらに、それぞれの標準設計アパートに関して、当時の建設状況を把握するだけでなく、可能な限り建設された位置を特定し、現況の確認作業を進める。一方、一年度目で重要な研究対象とした旧芦屋市営宮塚町住宅は、当時の建設省の標準設計に対する想定を超え、「現場」レベルで設計や施工に関する工夫が試みられていたという実態を示す好例であり、保存・活用論の側面からも特筆されるべき事例でもあるため、二年度目にも建設経緯などに関する研究を継続する。これに加え、現況の確認作業のなかで注目すべき事例が発見された場合には、可能であれば、宮塚町住宅と同様に現地における調査などを実施する。
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Causes of Carryover |
日本建築学会大会に参加するため北海道への旅費を計上していたが、新型コロナウイルスの影響を受け大会がオンラインでの開催となったため、当初の計画より実支出額が少なくなる形となった。二年度目には、標準設計アパートの実例の現地視察を計画しているため、この視察に対する旅費の形で次年度使用額を使用することを計画している。
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Remarks |
大月敏雄(監修), 松井圭太(編集), 栢木まどか, 堀内啓佑, 伊達一穂: ─関東大震災から100年─ 同潤会アパートと渋谷, 白根記念渋谷区郷土博物館・文学館, 全60p, 2023 (分担執筆: 第3章 pp.18-35 を担当)
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