2022 Fiscal Year Research-status Report
わが国戦中戦後の米子における市街地の形成と変容に関する研究
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22K14416
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Research Institution | Yonago National College of Technology |
Principal Investigator |
荒木 菜見子 米子工業高等専門学校, 総合工学科, 助教 (00912437)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 建物疎開 / 引揚者 / 住宅 / 商業地区 / 地方都市 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、山陰地方の中枢都市である鳥取県米子市を対象に、戦中から戦後にかけての都市空間編成に関わる各種の事業が、互いにどのような関係において実施されたかを明らかにすることである。本年度は、以下の成果をあげることができた。 (1)建物疎開の実施場所の特定と現在の地図上での整理をおこなった。山陰歴史資料館所蔵の「建物強制疎開関係資料一式」に収録された、建物疎開図(戦後における調査により作成されたもの)を用い、建物疎開の実施された敷地と取り壊された家屋の軒数について、現在の地図上(国土地理院地図)に整理した。ここから、一部については戦前から戦後にかけての都市計画的連続性の中で疎開実施が決定されたことがうかがえた。 (2)建物疎開跡地の戦後における取扱いについて、市史などの刊行史料から情報を整理し、都市計画に組み込まれていった箇所とそうでない箇所があることがわかった。 (3)米子市西倉吉町の建物疎開跡地における引揚者住宅およびマーケットについて、当時の様子を知る関係者の方に対しヒアリングを実施し、その空間の成立経緯と当時の空間復原について手がかりを得た。建物疎開跡地の一つである西倉吉町に米子市が引揚者住宅を建設、そこへ入居した引揚者らが立地の良さから商売をはじめ、その後市内で有数の一大商業集積地となったと考えられる。空間については、建物は1階が店舗で2階が住宅で、複数棟あった各棟の間に屋根を架け、一階の壁を取り払い一体空間にするなどの改造が行われたという。引き続き、一部現存する遺構から詳細な復原を試みたい。 (4)比較対象としての戦後岐阜駅前における引揚者住宅および商業地区について、実測やヒアリングにより空間復原をおこなった。ここから得られた調査・研究手法は、今後本研究においても援用できると考えている。岐阜における調査の成果は2023年度の日本建築学会大会学術講演会で報告予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度においては、鳥取県内での資料収集・分析、フィールド調査と、同じく地方都市で戦後に特異な空間形成が見られた岐阜市におけるフィールド調査を実施した。 鳥取県内での資料収集・分析では、米子市山陰歴史館所蔵の「建物強制疎開関係資料一式」や、古地図・古写真・空中写真、引揚者マーケット出身者らにより創設した企業の社史などの収集・調査につとめた。特に、「建物強制疎開関係資料一式」内の建物疎開図から、建物強制疎開が実施された敷地と対象建物の件数を明らかにし、それらを2022年現在のゼンリン住宅地図上でプロットし整理した。また、フィールド調査では、当時を知る関係者への聞き取りから、西倉吉町に建設された引揚者住宅と引揚者マーケットの建築空間について復原の手がかりを得て、当時の遺構の現存状況を確認した。 岐阜市におけるフィールド調査では、戦後都市形成の遺構の実測調査や関係者へのヒアリングを実施し、空間復原をおこなった。岐阜の調査で得られた知見や空間復原手法は、本研究においても援用できると考えている。 現在、収集した資料やヒアリング内容について引き続き分析を進めながら、米子市における戦後行政に関する資料や、当時の社会実体をうかがい知ることができる新聞資料について、追加収集をおこない、2023年度調査に向けて準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は大きく2点の達成を目標としている。1点目は、戦後の米子市営住宅の供給について支援政策の整備と事業の推進経緯、それぞれの住宅の具体的な計画敷地や建築の規模・質などについて明らかにする。2点目は、商業施設の建設について、その経緯や建設計画敷地や規模・質の把握を明らかにする。これらの達成のためにはこれまで収集した刊行資料の分析に加え、追加で行政文書や新聞資料、場合によっては企業所蔵の社史等の資料の追加収集が必要となる。また、フィールド調査も必要となる。これまでに実施したヒアリングでご協力をいただいた関係者を通じて、新たなヒアリング対象の方へつなげていただくことも考えている。これらの作業を2022年度の成果である建物疎開事業の展開と重ね合わせて相互の関係性の中で各事業を位置づけていき、戦後米子市の都市空間の形成過程を検証したい。
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Causes of Carryover |
当初計画していた『米子市史』の資料編の購入について、購入を希望した巻号が入手困難となり、図書館に所蔵されているものを複写することで資料収集をおこなったため、その購入費用が浮き、結果として次年度使用額が生じることとなった。
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