2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K14467
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
服部 裕也 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, NIMSポスドク研究員 (00907975)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 電子構造 / 量子振動 / STM |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、熱電材料分野では既存材料の2~3倍の熱電性能をもつ材料が次々と発見されている。そのうちの1つがSr/NaドープPbTe(ZT=2.5)であるが、その高い熱電性能の物理的起源は明らかになっていない。本研究では、物質の電子特性を決定する電子構造を実験的に検証することを目指している。2022年度はSr/NaドープPbTe単結晶に対し、強磁場測定・走査型トンネル顕微鏡(STM)測定を行うことで、その電子構造を実験的に決定した。 まず強磁場測定では、量子振動測定によりフェルミ面を決定することに成功した。低温(1.4 K)では、フェルミ面はL点を中心としたホールポケットのみから構成され、形状はシリンダー型をしていることが判明した。量子振動の角度依存性から、シリンダーの端点で複雑な形状をしていることが推測される。またホール抵抗の温度依存性から、第二価電子帯(Σバンド)がフェルミ準位以下50 meV程度の位置にあることが判明した。また磁気抵抗の角度依存性(AMR)は、高温(250 K付近)において挙動が反転することを発見した。 次にSTM測定では、電子状態密度のエネルギー依存性を測定した。この結果、Sr/NaドープPbTeでは、1. ドープを施していないPbTeに比べ、バンドギャップが大きくなること(200 meV→300 meV)、2. LバンドとΣバンドのエネルギー差が小さくなること(200 meV→150 meV)、3. フェルミエネルギーがLバンド端から100 meV程度下方にあること、が判明した。1.は高温でのバイポーラ効果によるゼーベック係数の減少を抑制し、2.は状態密度の大きいΣバンドによるゼーベック係数Sの増加につながる。Sr/NaドープPbTeにおける優れた熱電性能は、このようにドーピングにより大きく変調した電子構造に起因するものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高磁場測定・STM測定により、Sr/NaドープPbTeでは、ドープを施していないものと比べバンド構造が大きく変調することを実験的に示した。ドーピング元素を含む実際の熱電材料で、バンド構造を実験的に検証した例はこれまでなく、優れた成果が出始めていると考えられる。またAMRが高温において反転する結果は、当初予想しなかったものであるが、物性物理分野を中心に注目を集めると期待できる。以上総合して、概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
STM測定で得られた状態密度のエネルギー性と理論計算を組み合わせ、本系における巨大なゼーベック係数がバンド描像のみで説明可能か、それとも不純物効果のような局所的な電子構造を加味するべきなのかを定量的に評価する。また、これまでの研究で得られた強磁場測定・STM測定の方法論を、他の物質系に対しても適用する。
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Causes of Carryover |
結晶育成装置の値上がりにより、2022年度支給額での装置購入が出来なかった。そのため2023年度と合算して、装置を購入する。
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