2022 Fiscal Year Research-status Report
タングステン坩堝を用いた超高融点領域での重いシンチレータ単結晶の開発
Project/Area Number |
22K14469
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
堀合 毅彦 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 特任助教 (80887729)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | シンチレータ / 単結晶 / 融液成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん検診で使用されている陽電子放射断層撮影(PET)装置の高性能化に向けては、高エネルギーのガンマ線(511 keV)を可視光に変換することができるシンチレータ材料の開発が重要となる。ここでPET用シンチレータ材料に求められる特性に着目すると、① 感度を上げるために密度が高い(ガンマ線阻止能が高い)こと、② 511 keVのガンマ線を弁別できる高エネルギー分解能を得るために発光量が大きいこと、③ 高時間分解能を得るために発光の蛍光寿命が短いことが挙げられる。本研究では、高密度で阻止能が高いシンチレータ材料(重いシンチレータ)の新材料開発に向けて、未開拓領域であるイリジウムの軟化点温度近傍(2,000℃)以上での材料探索を行う。 2022年度は、発光中心としてCe3+を添加した希土類ペロブスカイト型シンチレータのGdScO3に注目し、放射線応答特性改善に向けてGdサイトへのY置換を検討した。マイクロ引下げ法を用いて単結晶育成を行い、坩堝材としてタングステン、断熱材として安定化ジルコニアを使用した。坩堝材と原料粉末の反応を抑制するために、単結晶育成中の炉内の酸素分圧を低く保つ必要があり、断熱材使用前にカーボン炉で脱酸素処理を行った。Y置換量0~80 mol%の単結晶育成を行った結果、全ての組成で透明な結晶を得ることに成功した。育成結晶の粉末X線回折測定の結果、最強ピークはY置換量増大に伴い高角側にシフトすることが明らかになった。イオン半径を考慮すると、Gd3+のイオン半径よりもY3+のイオン半径のほうがが小さいため、GdサイトにYが置換された影響と考えられる。また、発光量を評価するために、X線励起の発光スペクトルの積分強度を比較した結果、Y置換によって発光量が約5倍程度大きくなることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
未開拓領域であるイリジウムの軟化点温度近傍(2,000℃)以上での新規シンチレータ材料の探索に向けて、高速に単結晶を育成することが可能なマイクロ引下げ法とタングステン坩堝を用いた検討を行った。タングステン坩堝は容易に酸化され、結晶中にタングステン金属が取り込まれてしまうため、育成中の酸素分圧を十分低く保つ必要がある。育成中に炉内の酸素分圧が高くなる要因として、断熱材として使用している安定化ジルコニアからの酸素の脱離が考えられるため、使用前にカーボン炉内で脱酸素処理を行った。その結果、育成中にタングステン坩堝が酸化することなく、高融点酸化物単結晶の育成に成功した。2022年度は、希土類ペロブスカイト型シンチレータ結晶について検討を行い、結晶構造、光学特性、および放射線応答特性の関係について明らかにした。これまでの研究結果を含めると、マイクロ引下げ法とタングステン坩堝による単結晶育成によって、融点2,000℃以上の希土類パイロクロア型シンチレータ結晶および希土類ペロブスカイト型シンチレータ結晶の育成に成功していることから、炉内の酸素分圧の制御によって多くの高融点酸化物単結晶の育成が可能であると考えられる。以上の結果から、本研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
タングステン坩堝を用いた融液からの高融点酸化物単結晶の育成を行うためには、炉内の酸素分圧を低く保つことが重要である。現在は、断熱材として使用している安定化ジルコニアの脱酸素処理を事前に行ってから育成に使用しているが、還元雰囲気下でも酸素を脱離しにくい断熱材の検討を行う予定である。また、タングステン金属と原料粉末の反応性について、熱力学データベースを用いて融点近傍での平衡状態を計算し、育成前に相の安定性を確認することで今後の研究を推進していく。
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Causes of Carryover |
単結晶育成に使用するタングステン坩堝の納期が遅れており、2022年度中に納品されなかったため次年度使用額が生じた。 タングステン坩堝はすでに発注しており、届き次第すぐに実験に使用する予定である。
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