2022 Fiscal Year Research-status Report
データ駆動オペランド電子線モアレ法による全固体電池内Liイオン伝導の機構解明
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22K14473
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
麻生 浩平 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (20880008)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 電子顕微鏡 / 全固体電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
電気エネルギーを高効率かつ安全に利用する次世代社会に向けて、全固体リチウム (Li)イオン電池の研究が進められている。電池を充放電させるとき、内部ではLiイオンが伝導していく。電池性能向上に向けて、イオン伝導が結晶の局所構造 (結晶方位、欠陥、粒界など) からどのような影響を受けるか理解が求められている。そこで本研究では、走査透過電子顕微鏡 (STEM) とデータ科学に基づき、Liイオン電池内でイオンが伝導していく様子をナノメートルスケールで動的にとらえる手法を開発し、イオン伝導が局所構造と関係するか解明することを目的として進めてきた。当該年度では、STEM観察に向けた電池試料の加工、ならびにプログラミング制御によるSTEM像取得の自動化に注力してきた。 電池のSTEM観察に向けて、集束イオンビーム (FIB) による加工を試みた。薄膜電池から、FIBを用いて微小サンプルを切り出し、最終的に厚さを100 nm程度まで薄くした。試料をSTEM観察したところ、大部分は合成時に想定していた構造であった。一方で、正極と固体電解質の界面付近には、それらが反応したと思われる層が観察された。この反応層は、試料を大気に暴露した際に生じたと考えている。大気に暴露せずサンプルを搬送する手法の設計を進めている。 STEM内で電池を動作させながら観察する場合、数時間にわたって1分程度の間隔で像を取得し続ける必要がある。これを自動で行うため、Pythonプログラミング制御によってSTEM像を間欠的に取得するコードを開発した。本コードには、従来の問題であった試料への電子線ダメージを低減できる工夫も備えた。通常は像を取得したあとデータを保存し終えるまで数秒程度の時間があり、その間も電子線が試料に照射されつづける。しかし、本プログラミングでは、データ保存の間は電子線を照射しないよう設定できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本テーマは、申請者がこれまでに培ってきたSTEMとPythonプログラミングの技術を生かして、新たに電池材料の解析に挑戦するものであった。電池試料のための機器やノウハウがほぼ無い状況からのスタートではあったが、比較的順調に進んだと感じている。具体的には、完了した検討事項として、電池試料を加工するために必要な器具の設計と一部の開発、通常の薄膜試料とは異なる電池試料の加工手順の確認、Pythonプログラミング制御によるSTEM像の自動取得のコード化、電池動作下でSTEM観察するための微細加工チップの設計、電気化学測定のためのLabViewプログラミングコードの開発が挙げられる。一方で、微細加工チップは当初想定したよりも大幅に高額であったため、設計を綿密に仕上げるために時間を要している。また、大気暴露の影響を低減するために、Arガスを封入した密閉容器に試料を入れて、大気非暴露の状態で装置間を搬送するシステムの構想も進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、STEM観察しながら電気化学測定を行うための微細加工チップの開発と、大気非暴露で試料を搬送する機構の開発、およびSTEM像の自動取得コードの高度化を進める。その後、まずは一般的な試料支持グリッドを用いて電池試料のSTEM観察を行い、前述の大気暴露の問題が低減できているかを調べる。また、微小な電池を微細加工チップに搭載して、電池が機能するか、その充放電特性を測定できるか調べる。 上述の課題を一つずつクリアしていくことで、リチウムイオン電池内でイオンが伝導していく様子をナノメートルスケールで動的にとらえる手法が完成し、電池の特性に対する局所構造の関係を明らかにできると考えている。この知見は、設計や合成の研究者にフィードバックを与え、優れた電池材料の開発に貢献すると期待している。
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Causes of Carryover |
旅費、人件費・謝金、その他は、他の研究助成金によって賄うことができたため、本年度は使用しなかった。物品費は、当初は電気化学測定装置に充てていたが、十分なスペックを有する装置を借りる手はずが整ったため、電気化学測定用の微細加工チップの特注品に充てる計画であった。しかし円高の影響もあって本チップの額が200万円を超え、予想外に高額であったことから、設計を綿密に仕上げている。そのため当初の計画よりも時間を要している。このような理由から、次年度使用額が生じた。他の研究助成金や、旅費、人件費・謝金、その他に関する出費との兼ね合いを見ながら、次年度使用額は主に特注チップの製作依頼に使用する予定である。
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