2022 Fiscal Year Research-status Report
高性能光蓄電池の構築を目指したスピネル型酸化物正極の光電気化学挙動の解明
Project/Area Number |
22K14499
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
下川 航平 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (30876719)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 光蓄電池 / スピネル型酸化物 / 正極材料 / 光電気化学 / 結晶構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,光による電子励起を利用して充電反応を駆動する蓄電池(以後,光蓄電池)の構築に向けた基礎研究として,スピネル型酸化物正極の光電気化学挙動を調査することを主な目的としている.具体的には,スピネル型酸化物正極材料として一般的なLiMn2O4を用いた際の光電気化学特性を評価した後に,LiMn2O4を基軸として組成を変更した材料にも研究を展開することで,俯瞰的な理解を得ることを目指している.本年度の実績として,LiMn2O4とTiO2(光触媒)の粉末を混合した電極に対して,電子アクセプタを含む水系濃厚電解液中で紫外・可視光を照射することにより,LiMn2O4からのLi脱離(正極材料の充電反応)が進行することを実証し,さらにその詳細をX線構造解析や組成分析により明らかにした.本成果は,電子アクセプタを用いた半電池の設計であるものの,LiMn2O4などの所謂4V級の正極材料の安定的な光充電を初めて実証した研究として重要である.LiMn2O4が高電位の光蓄電池用正極材料として有望であることを示すことに成功したが,Li脱離後の構造の不安定性から光充電/放電時の可逆性に課題があったため,LiMn2O4の安定性を向上するための材料設計を行った.その結果,Mnの一部を異種元素で置換することにより,光照射下での不均化反応を抑制できることを明らかにした.これは,従来のリチウムイオン電池における正極材料設計の知見を活かしながら,高性能光蓄電池の実現に向けた設計指針を示す点で,意義深い進展である.現在は,異種元素置換を施した種々の材料の光充電特性を系統的に調査し,俯瞰的な理解を通じた新たな材料設計の学術基盤構築を目指して研究を推進している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では,スピネル型酸化物正極の光照射下におけるサイクル特性やレート特性等の評価を当面の目標としていたが,電子アクセプタを用いる電池セルの設計により光充電の実証に成功し,さらにその安定性を向上するスピネル型酸化物の構造設計も順調に進んでいることから,光蓄電池の構築に向けて計画以上の進展があったと言える.特に,リチウムイオン電池における4V級の高電位の正極材料の安定的な光充電を世界に先駆けて実証することができた点は,今後の研究を推進する際の足がかりになる重要な成果であると言える.さらに,光蓄電池への適用に向けて最適化したスピネル型酸化物正極の設計原理を構築することは,今後の光蓄電池研究の基盤になる重要な要素であり,申請者が先駆的に開拓しつつある状況にあると言える.近年の次世代蓄電池開発に対する関心の高まりや,小型のワイヤレスデバイスの普及も相まって,光充電の重要性は今後ますます増大することが期待される.そうした社会的なインパクトに繋がる基礎研究として,本研究で得られた成果は意義深く,また今後の進展が大いに期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては,光蓄電池に適したスピネル型酸化物正極の設計原理の確立を目指す.LiMn2O4に代表されるMn系のスピネル型酸化物正極は,高電位の正極材料として有望である一方で,充放電時の安定性に課題がある.特に光照射下においてはその劣化が顕著に促進されることを見出しており,実用的な光蓄電池用正極材料を構築するためには相安定性の向上が求められる.そこで,LiMn2O4のMnの一部を種々の異種元素で置換した材料を作製し,その光充電特性の評価を現在行っている.異種元素置換により安定性を向上させた材料においては,光照射下における充放電時の劣化が抑制される傾向を確認しており,またLiMn2O4より高容量の光充電を実証することに成功しつつある.さらに,設計した様々な材料の光電気化学特性の結果を俯瞰的に議論することで,従来のリチウムイオン電池とは異なる設計指針を見出しつつあり,その詳細についての調査を続ける予定である.その先の目標としては,全電池(フルセル)の構築が挙げられる.現状では,電子アクセプタを用いた半電池(ハーフセル)の設計で光充電を行っているものの,実用的な光蓄電池の構築に向けては負極材料を用いたフルセルの構築が不可欠である.上記の正極材料設計を中心に研究を推進しながら,フルセル構築に向けたセル設計や負極材料の選定についても検討を進める予定である.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により,当初予定していた旅費の使用が不必要になったため.次年度使用額は,試作した電池の性能評価に不可欠な電気化学装置のチャンネル増設費用の一部として使用する予定である.
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