2022 Fiscal Year Research-status Report
理論計算と実験の連携によるユビキタス固溶元素を利用した鋼の高耐食化
Project/Area Number |
22K14516
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
門脇 万里子 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 研究員 (60908599)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 鉄鋼材料 / 固溶元素 / 耐食性 / 電気化学計測 / 第一原理計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄鋼材料では多くの場合、クロムなどのレアメタルの添加による高耐食化が図られるが、レアメタルの枯渇や偏在化が問題視されており、それらを用いない新たな高耐食化原理が求められている。本研究では「鉄にユビキタス固溶元素を添加し、電子物性を制御する」ことで、高耐食化の実現を目指す。具体的には、純鉄(bcc Fe)をベースに、第一原理計算と電気化学計測技術を連携することで、固溶元素が鉄の腐食挙動に及ぼす影響を原子レベルの着眼点から系統的に明らかにする。 今年度は鉄への添加元素として、リン(P)に着目して研究を実施した。第一原理計算により、鉄にリンを添加した際の電子構造や電子物性の変化を解析した。その結果、リンを添加することで鉄のフェルミ準位における状態密度が減少することを見出した。鉄の腐食反応も含め金属の電気化学反応(酸化・還元反応)には,電子伝導を担うフェルミ準位近傍の電子(価電子)が関与している。固溶リンの添加によりフェルミ順位近傍での状態密度が変化したことから、固溶リンは鉄の電気化学反応性に影響をおよぼすと推定される。 さらに、実際のリン添加鋼の耐食性を電気化学計測(実験)により調査した。Fe-0.5 mass%P、Fe-1.0 mass% P、およびFe-1.5 mass% P合金について、NaClを含有する溶液中での耐食性を調査したところ、最もリン濃度の高いFe-1.5 mass%P合金は、他の試料より局部腐食が発生しやすいことが判明した。表面分析の結果、Fe-1.5mass% P合金ではリンは固溶状態だけでなく、粒界偏析の状態でも存在することが判明した。このリンの粒界偏析が起点となり、局部腐食が生じたと考えられる。第一原理計算の結果に基づくと、熱処理などを適切に実施することで、粒界に偏析したリンを固溶させることができれば、耐食性を向上できる可能性があると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題申請時は、今年度は第一原理計算による解析のみを行うことを予定していたが、研究が順調に進行したため、実験による耐食性の調査まで行うことができた。そのため、達成度を「2. おおむね順調に進行している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに行った電気化学計測(実験)により、リンが粒界偏析として存在する場合は鉄の耐食性を低下させることが判明した。今後は、リンを粒界偏析ではなく固溶状態で金属組織中に存在させるための適切な熱処理条件などを検討し、固溶リン添加鋼の腐食挙動の解明を目指す。さらに、そのような実験で得られた知見と第一原理計算の知見を照らし合わせることで、鉄鋼材料の耐食性と電子物性との関係性を系統的に明らかにすることを目指す。
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Causes of Carryover |
申請当初は、二年目以降に行う電気化学計測のための備品の購入を一年目に行うことを予定していた。しかし、本研究の目的や試料の形状に適した計測装置の選定に予定以上に時間が掛かったため、購入費用などを次年度に持ち越した。また、当初は予定していなかった、第一原理計算の専門家との意見交換を二年目以降に実施するべきと考え、それに使用するための予算を次年度に持ち越した。
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Research Products
(3 results)