2022 Fiscal Year Research-status Report
光応答性ガス発生ポリマーを用いた3次元細胞組織の形状制御技術の構築
Project/Area Number |
22K14583
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
上野 秀貴 神戸大学, 未来医工学研究開発センター, 特命助教 (00881418)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | ナノマイクロシステム / バイオマイクロシステム / Lab on a Chip / BioMEMS / Tissue Engineering |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、特定の波長の光を受光した際に、その体積の約10倍の窒素ガスを発生させる光応答性ガス発生ポリマー(LGP)を用いた、細胞に低負荷な細胞組織構築方法を提案する。具体的には、血管組織にみられる中空形状のような、意図した形状を有する細胞組織を構築することを目的としている。将来的な本技術の展開先として、薬剤スクリーニングなど人体外での利用のみでなく、再生医療など、人体内での利用も考慮しているので、本研究では人工物を含まない細胞組織の構築を目指す。 実現方法として、半導体作製技術などの微細加工技術を用いて、光に反応して窒素ガスを生成するLGPを加工する。作製したLGPのマイクロ構造上に細胞を播種し、細胞がLGP構造と同様の形状となった後、窒素ガスによりLGP構造上からの細胞組織をリリースして回収する。 研究項目は3つあり、①マイクロスケールの形状を有するLGP構造の加工方法の構築、②LGP構造上に細胞を接着培養するための適切なコーティングおよび培養条件の特定、③LGP構造上からの細胞組織の低負荷な回収と、回収した細胞組織の形状保持時間および代謝機能などの評価である。本年度は特に、①のマイクロスケールの形状を有するLGP構造の加工方法の構築において、10マイクロメートルから100マイクロメートル以下のLGP構造の作製とその加工精度の評価を行った。評価結果より、細胞組織の構築に十分と考えられる精度でLGP構造を作製できることを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における研究項目は3つあり、それぞれ①マイクロスケールの形状を有するLGP構造の加工方法の構築、②LGP構造上に細胞を接着培養するための適切なコーティングおよび培養条件の特定、③LGP構造上からの細胞組織の低負荷な回収と回収した細胞組織の形状保持時間および代謝機能などの評価である。本年度は特に、①のマイクロスケールの形状を有するLGP構造の加工方法の構築の検討を行った。 光応答性材料であるLGPに対しては、一般的な半導体加工やMEMS加工に用いられるフォトリソグラフィの直接の利用が困難であるので、これらの微細加工法により作製した微細構造を鋳型として用い、その形状を転写することでLGPのマイクロスケールの成型に取り組んだ。形状転写後に鋳型と離型する必要があるので、鋳型の形状のみでなく、材料や表面コート剤などについても検討を行った結果、最小で10マイクロメートル以下のLGP構造を作製することができた。作製された構造は走査型電子顕微鏡、接触式/非接触式の形状測定器などを用いて評価し、作製誤差5%以内で作製できることを明らかにした。1つの細胞の大きさは数マイクロメートルから数十マイクロメートルであるので、提案技術に求められるサイズと精度のLGP構造を作製できることを示せた。 また、研究項目②についても検討を始めており、コラーゲンなどの細胞外マトリックスを用いることでLGP上に細胞が接着することを明らかにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究初年度から取り組んでいる研究項目①については、来年度は鋳型を用いる加工法のみでなく、トップダウン式の加工法についても検討を行い、走査型電子顕微鏡や接触/非接触形状測定器を用いて加工形状やその精度を評価する。具体的にはNC加工機を用いた切削加工や、有機系ポリマーの除去工程に用いられるプラズマ加工などを用いてLGP構造の作製を試み、その加工精度などを明らかにする。 すでに検討を始めている研究項目②については、他の細胞外マトリックスやマトリゲルなどを用いて評価実験を行う。また、これらのコーティング材料の効果は、培養する細胞種によって異なるので、LGP構造上に播種する細胞種を変えて実験を行う。具体的には、接着性のヒト子宮頸がん細胞のHeLa細胞、ヒト脳腫瘍細胞のU-87細胞などの利用を計画している。 研究項目③については研究項目②の実験と合わせ適切な細胞回収条件の特定を行う。照射された光の波長と強度によりLGPから発生する窒素ガスの量は決定するので、細胞に負荷をかけることなく、確実に細胞組織をLGP構造上から回収するために必要な光の照射条件を明らかにする。照射方法としては、一般的な小型のLED光源を用いる方法だけでなく、細胞の観察に用いられる蛍光顕微鏡の光源を用いる方法も検討する。蛍光顕微鏡を用いた場合のLGP構造から生成される窒素ガス量とそれによる細胞回収効率を評価することで、LGP構造上の細胞の観察とその回収を蛍光顕微鏡のステージ上で並行して行う手法を検討する。
|
Causes of Carryover |
本年度は、LGPの加工特性を得るための実験を中心に行った。LGPは共同研究先からの提供を無償で受けることができ、加工については所属機関保有の装置などを主に利用したため、当初の計画と比較して使用経費が少額となった。 次年度以降は外部の加工装置の利用と、細胞実験に伴う消耗品購入のための経費が必要となるので、今年度の使用を予定していた経費については、次年度以降の実験に使用する。
|