2022 Fiscal Year Research-status Report
放射線で生成する活性種の空間分布予測を実現する溶液中の誘電分光研究
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22K14631
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
樋川 智洋 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究職 (90783316)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 誘電分光 / 複素誘電関数 / 放射線分解 / スパー / 燃料サイクル |
Outline of Annual Research Achievements |
本事業期間において、放射性核種の抽出分離に用いられる有機溶媒(抽出溶媒)を対象とした誘電分光研究を実施することで、放射線により生成する活性種と抽出溶媒中の分子との相互作用を明らかにし、スパー形成メカニズムの解明を目指す。 2022年度は、周波数特性の異なる2種類の誘電分光測定手法を組合わせることで、キロヘルツからギガヘルツの広範囲にわたる周波数領域をカバーする誘電分光測定系を構築し、抽出溶媒などの複素誘電関数を取得した。これらの周波数領域では溶媒中の分子の回転配向に起因する分極モードが観測された。また水(比誘電率:78)やエタノール(比誘電率:25)などの極性の強い溶媒中ではこの分極モードに起因する誘電損失がギガヘルツ領域で観測されたのに対し、放射性核種分離用抽出剤の一つであるTODGA(テトラオクチルジグリコールアミド、比誘電率:7.0)やHONTA(ヘキサオクチルニトリロトリアセトアミド、比誘電率:8.7)の誘電損失はメガヘルツ以下の領域にシフトしており、ギガヘルツ領域では誘電損失は観測されなかった。 この分極モードは活性種のスパー内でのクーロン束縛を弱める働きがあると考えられる。ギガヘルツ領域で観測された分極モードは、時間で考えるとおよそピコ秒領域の応答に対応する。つまり抽出溶媒中で発生した活性種は、周囲の分子がナノ秒以上をかけてゆっくり分極応答するために、ピコ秒以下の時間において非極性溶媒中のようにより強固にクーロン束縛される可能性が示唆された。 以上により、複素誘電関数の取得が可能となったことで、抽出溶媒中の分子と活性種との相互作用について予測・評価する方法を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に予定していた誘電分光測定系の構築及び整備は当初の計画通りに進んでおり、既に評価対象としていた溶媒について複素誘電関数を取得できている。進捗状況はおおむね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度に得られた抽出溶媒の複素誘電関数を基に、スパー形成メカニズムで重要となる熱化過程及びクーロン力による束縛過程を特徴づけるパラメーターとなるエネルギー損失関数及びクーロン力の時間変化を導出することで、放射線により発生した活性種に対して溶液中の分子がどのように応答し、活性種が持つ運動エネルギーをどのように吸収するかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
物品購入時に当初の見積りよりも安価に調達できたこと、及び当初想定していた出張に係る費用支出の必要がなくなったことにより、次年度使用額が生じることとなった。次年度使用額は、2023年度分研究費と合わせて、誘電分光測定用の試薬および消耗品等の購入に充てる。
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Research Products
(1 results)