2022 Fiscal Year Research-status Report
禁制モードの時間特性を利用した高効率な光アンテナの実現
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22K14641
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
今枝 佳祐 北海道大学, 理学研究院, 助教 (30754717)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 金属ナノ構造 / プラズモン / 時間分解計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
金属ナノ構造による時間的な光閉じ込め効果の向上を図るために,周期配列金属ナノ構造および金属ナノ構造とフォトニック結晶とのカップリング系をそれぞれ構築した。時間分解計測から,これらのカップリング系において,長寿命なプラズモン共鳴が選択的に励起できることを明らかにした。また,電磁気学計算により近接場強度を見積もった結果,プラズモン位相緩和時間が長くなるに従い,近接場増強度も向上することがわかった。この成果は,カップリング系を用いて長寿命なプラズモン共鳴を励起することで,金属ナノ構造の時間的な光捕集機能が向上させ,単体の金属ナノ構造よりも強い近接場を誘起できることを示している。特に,フォトニック結晶と金属ナノ構造をカップリングさせた系においては,フォトニック結晶バンド付近においてスペクトル的にシャープな近接場増強が確認でき,金属ナノ構造においてQ値の大きな近接場を誘起できることが明らかとなった。 また,遷移金属ダイカルコゲナイドと金属ナノ構造のカップリング系についても研究を行った。セレン化モリブデンと金属ナノ構造をカップリングさせると,プラズモン共鳴スペクトルに変調が生じ,共鳴スペクトル幅が短くなる現象が見出された。これは,セレン化モリブデンのエキシトンとプラズモン共鳴が相互作用することで,光学禁制なプラズモンモードが励起されたことを示唆している。このセレン化モリブデンと金属ナノ構造の電磁気学的な相互作用を利用することで,長寿命な禁制プラズモンモードが励起でき,近接場光増強を向上させることができると期待される。これを検証するために,遷移金属ダイカルコゲナイドと金属ナノ構造のカップリング系においてプラズモン位相緩和時間測定および近接場スペクトル測定を進めていく計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は,超高速時間分解計測および非線形分光計測を駆使することで,金属ナノ構造カップリング系におけるプラズモンの位相緩和過程および近接場スペクトル特性を究明する研究に取り組んできた。金属ナノ構造の周期配列構造では,遠方場カップリングにより配列周期に依存してプラズモン共鳴スペクトルが顕著に変化すること,さらにプラズモンの位相緩和時間をピッチサイズにより制御できることを明らかにした。これらの実験結果は,電磁気学計算の結果ともよく一致しており,遠方場カップリングがプラズモンの緩和ダイナミクスおよび近接場スペクトル特性に与える影響を解明することに成功している。また,フォトニック結晶とのカップリング系においても,近接場スペクトル特性とプラズモン位相緩和特性を計測することができており,フォトニック結晶との相互作用によりプラズモンの時間応答が大きく変調され,非常に強い近接場増強が誘起されることが明らかにした。これらの成果は,本研究の目的である長寿命なプラズモン共鳴により,時間領域から金属ナノ構造の光捕集機能を向上させることが可能であることを示すものである。以上のように,当初の計画通りに時間的な光捕集機能の向上が達成できていることから,本研究はおおむね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,金属ナノ構造に励起されるプラズモンの時間特性を理解・制御することで,時間領域から光捕集機能の向上を図ること目的としている。昨年度は,金属ナノ構造のカップリング系を構築することでプラズモンの位相緩和時間を延ばし,より強い近接場を誘起する研究を推進してきた。これらの研究では,金属ナノ構造の光学許容なモードに注目し,その位相緩和時間の向上を図ることに注力していた。本年度は,金属ナノ構造の光学禁制なプラズモンモードに注目し,その時間特性を利用することで更なる近接場増強を実現することを目指す。これを達成するために,遷移金属ダイカルコゲナイド層状物質と金属ナノ構造のカップリング系を研究対象とする。このカップリング系では,エキシトンとプラズモンの相互作用により禁制なプラズモンモードが励起されることを示唆する結果が得られている。この禁制モードの基礎的な光学特性を究明するために,再現性の高いカップリング系の作製方法を確立するとともに,金属ナノ構造と遷移金属ダイカルコゲナイドとの結合状態を定量的に評価することを目指す。さらに,金属ナノ構造と遷移金属ダイカルコゲナイドの結合状態に応じて,プラズモンの禁制モードの励起確率や近接場増強度がどのように変化するかを系統的に検証する。これらの研究から,高効率な光捕集機能を実現するための基礎的な指針を得る計画である。
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Research Products
(27 results)