2023 Fiscal Year Research-status Report
三重項-三重項消滅により生じた多重励起子におけるスピン変換機構の解明
Project/Area Number |
22K14648
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
岡本 翔 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 助手 (70936616)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 電子スピン共鳴 / 三重項-三重項消滅 / 励起子拡散 / 溶媒粘度 |
Outline of Annual Research Achievements |
白金オクタエチルポルフィリン(PtOEP)とジフェニルアントラセン(DPA)を混合した溶液サンプルのESR信号解析を行った。多重励起子(TT)状態のスピン変換に関する情報を得るため、ESR信号にわずかに含まれるTTと考えられる成分を詳細に解析したが、信号品質が悪いため本成分の時間発展を明確に追跡できず、本解析は中断とした。一方、溶媒粘度を変えたサンプルを複数種類作成し、時間分解ESR測定を行った結果、それぞれ異なるESR信号が得られ、溶媒粘度に依存したDPAの回転相関時間を決定した。併せて蛍光寿命測定を実施し、PtOEPからDPAへのエネルギー移動やTTAの速度定数を決定した。今後、これら速度論的パラメータを活用し、励起子の電子スピン分極やスピン緩和に関する知見獲得を目指す。 また、溶液系材料に対する研究と並行して、固体系TTA-UC材料に対する時間分解ESR測定を実施した。ITIC-Clを増感剤、非晶性ルブレンを発光剤とする二層薄膜固体材料に対して、時間分解ESR測定を行った結果、マイクロ波放出型のESR信号を観測した。解析の結果、ESR信号はルブレンの三重項励起子由来であることが分かり、ゼロ磁場分裂定数、電子スピン分極率を決定した。また励起子の大部分が1ns間隔でルブレン分子間を移動し、非晶性ルブレン薄膜内部で回転拡散していることが明らかとなった。TTAで生成するTTのスピン変換機構について検討するため、TTA-UC反応中の電子スピン状態の時間発展を記述する理論モデルを構築した。計算時間短縮のために現有PC性能を部品交換によりアップデートし、新しい数値計算環境を整備した。ESR測定で得られた知見を考慮してモデル計算を実行した結果、上述の特徴的な運動性が五重項性TTから一重項性TTへの高効率スピン変換および高効率UC発光の実現に貢献していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた溶液系TTA-UC材料における、TTA-UC反応に由来するESR信号の時間発展を、溶媒粘度の異なる複数条件において観測しただけでなく、固体系TTA-UC材料においてはESR信号の観測、および多重励起子スピン変換機構の解明に成功し、高効率UC材料開発に向けたミクロな観点からの新しい知見を得ることが出来たため、当初の目標をおおむね達成した。次年度は、これまでに確立したTTAにおける多重励起子のスピン変換機構の解析手法を活用して、様々な材料研究に展開していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
溶液系TTA-UC材料に対しては、引き続きTTA反応中のスピンダイナミクス解明に取り組む。化学反応を記述する微分方程式と磁場中の電子スピン運動を記述するブロッホ方程式とを組み合わせた拡張ブロッホ方程式を用いて、化学反応誘起型ESR信号の解析手法をTTA-UC系に対して適用する。そのための計算モデルを新たに構築中である。過渡吸収や蛍光寿命測定で得られた各種反応速度定数を用いて、電子スピン分極、スピン―格子緩和時間、およびスピン―スピン緩和時間を決定する予定である。これら決定値の溶媒粘度依存性を調べ、スピンダイナミクスを明らかにしていく。また、固体系TTA-UC材料に対しては、前年度までにルブレン/ITIC-Cl系で確立した解析手法を、他の増感剤、発光剤で構成される系に応用し、TTAで生成する多重励起子のスピン変換機構に関してより深い考察につなげていく予定である。
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