2023 Fiscal Year Research-status Report
シアノバクテリア時計タンパク質振動子の出力分子機構の理論的解明
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22K14652
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
甲田 信一 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 助教 (10790404)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 反応経路探索 / 遷移状態探索 |
Outline of Annual Research Achievements |
シアノバクテリアの体内時計はKaiA,B,Cの三種類のタンパク質で駆動される。KaiBはその振動情報を外部に伝える際に重要な役割を担う。KaiBは二つの安定した折りたたみ構造を持ち、それぞれに対応した複数の役割を果たす。これらの構造間の遷移は非常に複雑であり、その分子的詳細はまだほとんど理解されていない。そこでまず、このような複雑な状態変化であっても両端の安定構造さえ分かっていればそれらをつなぐ反応経路を見つけ出す計算手法を開発した。 今回開発した手法は、(i)変分的経路最適化の枠組みで定式化されている、(ii)最適経路はいわゆる最小エネルギー経路に収束する、(iii)2次以上のエネルギー微分を必要としない、(iv)経路上の複数の代表点でのエネルギー計算を並列化可能、といった望ましい性質を兼ね備えている。今回の手法の性能は非常に強力である。既存の著名なNudged Elastic Band (NEB)法と比較すると、計算量が5~7割減少した。なお、この手法を広く使用してもらうために、ソフトウェア開発も行い、その結果もGitHubにて公開した。 KaiBの構造変化に関しては、新たに開発した分子構造ベースの軽量なポテンシャルエネルギー(投稿準備中)を今回開発した手法に適用することで、二つの折り畳み構造をつなぐ原子衝突のないスムースな経路を得ることに成功した(投稿準備中)。ただし、この経路は原子衝突がないだけであって、現実的な経路かどうかはまだわからない。そこで、今後は通常の分子動力学シミュレーションで用いられる、より現実的なポテンシャルエネルギーを使用して反応経路をリファインし、その経路に沿った自由エネルギーを評価する。その際はstring法などの使用を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
シアノバクテリアの体内時計はKaiA,B,Cの三種類のタンパク質で駆動される。KaiBは二つの安定した折りたたみ構造を持ち、それぞれに対応した複数の役割を担う。これらの構造間の遷移は非常に複雑であり、その分子的詳細はまだほとんど理解されていない。そこでまず、このような複雑な状態変化であっても両端の安定構造さえ分かっていればそれらをつなぐ反応経路を見つけ出す計算手法を開発した。 今回開発した手法は、(i)変分的経路最適化の枠組みで定式化されている、(ii)最適経路はいわゆる最小エネルギー経路に収束する、(iii)2次以上のエネルギー微分を必要としない、(iv)経路上の複数の代表点でのエネルギー計算を並列化可能、といった望ましい性質を兼ね備えている。今回の手法の性能は非常に強力である。既存の著名なNudged Elastic Band (NEB)法と比較すると、計算量が5~7割減少した。なお、この手法を広く使用してもらうために、ソフトウェア開発も行い、その結果もGitHubにて公開した。 KaiBの構造変化に関しては、分子構造ベースの軽量なポテンシャルエネルギー(投稿準備中)を今回開発した手法に適用することで、二つの折り畳み構造をつなぐ原子衝突のないスムースな経路を得ることに成功した(投稿準備中)。 シアノバクテリアの体内時計の出力機構を明らかにするという当初の課題の進捗状況としてはやや遅れていると言える。というのも、今回の反応経路探索手法およびそのソフトウェア実装の開発に2年かかってしまい、具体的な応用にはようやく着手できたところだからである。ただ、今回の手法は物質の状態変化を扱う自然科学のあらゆる分野に貢献するものであり、そのインパクトは"当初の計画以上"である。
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Strategy for Future Research Activity |
上にも記したとおり、今回開発した手法に適用することで、KaiBの二つの折り畳み構造をつなぐ原子衝突のないスムースな経路を得ることに成功した。ただし、この経路は原子衝突がないだけであって、現実的な経路かどうかはまだわからない。そこで、今後は通常の分子動力学シミュレーションで用いられる、より現実的なポテンシャルエネルギーを使用して反応経路をリファインし、その経路に沿った自由エネルギーを評価する。その際はstring法などの使用を予定している。
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Causes of Carryover |
当初計画よりも出張予定が減ったため、旅費の支出額が少なくなった。また、これまで課題遂行のための計算手法開発を行っていたため、分子動力学シミュレーションはまだほとんど行っていない。今後、分子動力学シミュレーションに適した計算機を購入する予定である。
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Research Products
(3 results)