2022 Fiscal Year Research-status Report
高度に立体制御された含フッ素エノラートの合成と応用
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22K14682
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
土井 良平 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (40780052)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ニッケル触媒 / ニッケル錯体 / N-ヘテロ環状カルベン / 炭素ーフッ素結合切断 / クロスカップリング反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機フッ素化合物は医薬品開発に不可欠であるため、合成法が世界中で研究されている。特に近年、含フッ素4級不斉炭素が注目されている。しかし、その合成法は限られており、特に非環式(鎖状構造)の含フッ素4級不斉炭素の構築方法は少ない。 本研究では、非環式の含フッ素4級不斉炭素構築法開発にむけて、シリルエノラートに着目した。エノラートは不斉炭素含有分子の重要な合成原料である。特にシリルエノラートは空気中で取り扱い可能である。そこで、フルオロシリルエノラートを効率的に合成できれば、含フッ素4級不斉炭素の合成原料として有用であると考えた。 初年度はフルオロシリルエノラートの新規合成法開発を目指し、ジフルオロシリルエノラートのC-F結合切断を伴うクロスカップリング反応の開発に着手した。まず、化学量論量のニッケル錯体とジフルオロシリルエノラートの反応を検討したところ、N-ヘテロ環状カルベン(NHC)を配位子に有するニッケル錯体を用いることで、効率的にC-F結合が切断されることを見出した。この反応はリチウム塩の添加によって促進されることを見出した。また、この知見をもとにジフルオロシリルエノラートと有機亜鉛試薬のクロスカップリング反応を検討した。種々のNHCを検討したところ、効率よく一つのフッ素のみが変換される反応条件を見出した。この反応は種々の基質に適用可能であり、特に一部のアルキル化にも有効であることが明らかとなった。触媒的クロスカップリング反応により得られたフルオロシリルエノラートは幾何異性がほぼ完全に制御されており、今後これを用いた立体選択的な反応の開発に挑戦していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に予定していた、金属錯体を化学量論量用いたC-F結合切断反応の開発および触媒的なクロスカップリング反応のいずれも達成できた。C-F結合の切断反応では、切断反応の詳細を密度汎関数法を用いた理論化学計算により詳細を明らかにした。また、得られた錯体は単離・精製し、単結晶X線構造解析によって構造同定することにも成功した。触媒的なクロスカップリング反応の開発では、化学量論量用いた反応にて使用したN-ヘテロ環状カルベン配位子が目的の生成物を与えなかったが、種々の配位子を検討した結果、目的の反応のみが進行する触媒系の開発に成功した。さらに、生成物の単離・精製にて分解が見られたが、これもシリル基上の置換基を変更することで解決できた。現状では空気・水に不安定な有機亜鉛試薬の使用が必須であったり、適用できない基質も散見されるものの、反応開発研究としては一定の成果が得られたと考えている。本研究は2年間の計画であり、初年度を終えた時点で研究計画内容のおおよそ半分が達成できたため、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、触媒反応のさらなる適用範囲探索および得られたフルオロシリルエノラートの利用法開発に注力する。今回開発に成功したクロスカップリング反応では、有機亜鉛試薬が必須であること、アルキル基を有する基質の適用範囲に限界がある、などの課題が残っている。そのため、空気や水に安定で取り扱いやすいボロン酸やそのエステルを用いた反応の開発を行いたい。また、アルキル基の導入法は非常に重要であるが、現状メチル化およびベンジル化にしか成功していない。そのため、より広範なアルキル基を導入できる手法の開発に取り組みたいと考えている。 本研究で得られたフルオロシリルエノラートは、その利用法がいまだ十分には確立されていない。そこで、この分子を用いた有機フッ素化合物の新規合成法の開発に取り組む。特に遷移金属錯体やルイス酸を用いた反応の開発を行い、最終的には触媒的不斉合成によって光学活性なフッ素化合物の合成を達成したいと考えている。
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Causes of Carryover |
効率的に実験を進めることができたため、薬品などを購入する消耗品費を抑えることができた。一方で、今後の実験計画では多種類の薬品を使用する予定であり、次年度使用することとした。 また、初年度ということもあり、序盤ではさほど研究成果が上がらず、学会発表などができなかったため、次年度に学会発表を積極的に行う。
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