2022 Fiscal Year Research-status Report
メソポーラスアルミノシリケートを用いたITO上での電極界面反応場の創製
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22K14699
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
岡村 将也 神奈川大学, 工学部, 助教 (90782251)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 人工光合成 / 電気化学 / 触媒 / メソポーラスシリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、透明電極であるITOガラス基板の表面に垂直メソチャネル構造を持つアルミニウム含有シリカ薄膜を合成し、機能性金属錯体を固定化する。まず、エタノール/アンモニア水溶液中に界面活性剤としてCTAB、シリカ前駆体としてTEOS、添加剤としてデカンを加え、60℃で72h加熱してITO電極上にシリカ薄膜を形成させた。得られた電極の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、垂直方向に形成されたメソチャネル構造を確認した。また、電極上のシリカ薄膜のみを剥離させ透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、同様に細孔構造が認められた。次に、同様のシリカ薄膜合成条件にて、ケイ素に対して一定のモル比でアルミニウムを添加した。アルミニウム源にはアルミン酸ナトリウム、アルミニウムイソプロポキシド、硝酸アルミニウムをそれぞれ検討した。SEM観察の結果、いずれのアルミニウム源を用いた場合でも細孔構造を有することが明らかとなったが、硝酸アルミニウムが最も均一な構造を形成していた。そこで、硝酸アルミニウムを用いて調製したアルミニウム含有シリカ薄膜に、Ru酸素発生触媒:[Ru(trpy)(bpy)(OH2)]2+ (trpy = 2,2':6',2''-terpyridine, bpy = 2, 2'-bipyridine)を固定した。得られた錯体固定化電極のサイクリックボルタンメトリー測定を行ったところ、Ru(II/III)に帰属される酸化波が観測され、ITO電極上のシリカ薄膜にRu錯体が固定化されたことがわかった。Ru錯体の固定量は、定電位電解により~5 nmol/cm2と推定された。さらに、この固定化電極を用いて水の酸化反応に対する触媒活性を評価した。その結果、0.95 V (vs Ag/AgCl)付近から不可逆な電流値の増加が観測され、これは酸素発生反応に伴う触媒電流だと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はITO電極上に垂直メソチャネルを有するアルミニウム含有シリカ薄膜を形成し、その表面構造を確認した上でRu錯体を固定化した。アルミニウム含有シリカ薄膜の合成では、アルミニウム源の種類、シリカ前駆体と界面活性剤の混合比、添加剤の種類、温度、pHなど様々な反応条件を検討し、垂直メソチャネル構造の形成条件を見出すことができた。また、アルミニウムイオン(Al3+)の導入により、シリカ薄膜にカチオン性金属錯体を固定化することができ、Ru錯体を固定した電極は水溶液中で触媒電流が観測された。以上から、本研究は当初の計画通り、概ね順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
アルミニウム含有シリカ薄膜の合成では、アルミニウムの添加量に応じて錯体の固定量が増加することが確認されている。しかし、形成されるシリカ薄膜の量は少なく、これまではアルミニウム含有量や錯体固定率を定量的に評価することが出来ていなかった。そこで、今後はスケールアップした反応条件で合成を行う。得られたシリカ薄膜は、ITO電極から剥離させたのち、強アルカリを作用させることで溶解させ、ICP-MS測定によりアルミニウム含有量を測定する予定である。さらに、剥離させたシリカ薄膜について窒素吸着測定によりBET表面積や細孔容積を調べ、金属錯体固定化後の電気化学的挙動と触媒活性に及ぼすメソチャネル構造の影響を評価する。また、適用できる触媒反応の幅を広げるため、これまで使用してきたITO電極に加え、他の透明電極(FTO、GZO)上でのシリカ薄膜の開発にも着手する計画である。 Ru錯体固定化電極は酸素発生に由来すると考えられる触媒電流を示している。そこで、定電位電解を行い生成物である酸素を定量し、触媒活性を比較検討する。また、メソポーラスシリカ薄膜の細孔内部を有機官能基で修飾することで、反応場の親疎水性を制御することを目指す。シリカ担体表面に存在するシラノール基に対し、トリメチルシリル(TMS)基や長鎖フルオロアルキル基を導入し疎水的な反応場を構築する。シリカ薄膜の親疎水性は水の接触角により評価し、触媒活性との相関を評価したい。このとき水の酸化反応だけでなく、二酸化炭素の還元反応など、無極性分子を基質とする触媒反応も検討する予定である。
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Causes of Carryover |
本研究では物品費(消耗品)の大部分を大量に使用するITO膜付きガラスの購入費用に割り当てていた。しかし、研究が順調に進捗したことで、メソチャンネル構造を持つアルミニウム含有シリカ薄膜の合成が、当初の予想よりも早く達成することができた。その結果、反応条件を検討する際に必要なITO電極が少なくて済むことがわかった。一方、形成されるシリカ膜の量は少なく、これまでのところアルミニウム含有量や錯体固定率などの評価ができていないことから、今後は反応のスケールアップが必要となる。したがって、2024年度には初年度を大きく上回る量のITO膜付きガラスが必要になると予想され、その購入費用に充当する計画である。
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