2022 Fiscal Year Research-status Report
ペプチド原子分解能イメージング法開発に基づく自己集合過程の解明
Project/Area Number |
22K14704
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中室 貴幸 東京大学, 総括プロジェクト機構, 特任准教授 (30831276)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ペプチド / 透過電子顕微鏡 / 自己集合 / 原子分解能 / 単分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
自己集合現象は広く科学一般の重要な研究分野であり,本研究ではペプチド凝集挙動に着目した研究を執り行う.ペプチド凝集挙動の解明は,物理的性質を理解するだけに留まらず創薬設計指針の獲得など基礎から応用研究まで重要とされる.ペプチドは数kDa程度の有機中分子であり,その構造解析にはNMRやX線結晶構造解析が重用されてきた.しかしながら,本質的に混合物である凝集体を解析する目的には,これらのアンサンブル平均の分子描像を与える分析ツールは適さない.一方,単分子観察法としての原子間力顕微鏡(AFM)では,水平方向への分解能の制限により精緻な構造情報の獲得がしばしば困難となる.このような背景のもと,初年度は本申請研究では広く自己組織化現象に対しての知識を進歩させる,新たなイメージング法として単分子原子分解能時間分解電子顕微鏡法(SMART-EM)の深化を目指した. 数あるペプチド分子から,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の治療薬として注目を集めるダプトマイシン(cubicin)を概念実証のモデルとして選定した.カルシウム依存的な自己集合過程を精緻に解析するためのSMART-EM手法の開発,ならびに動的光散乱法などの分析手法を組み合わせることにより,ペプチド凝集挙動に対する分子レベルでの知見獲得を実現する分析方法を確立した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度ではダプトマイシン(cubicin)をモデル基質として選定し,その自己集合過程の詳細を解析した(T. Nakamuro et al, J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 13612.).単分子原子分解能時間分解電子顕微鏡(SMART-EM)イメージング法によって単量体から4量体を捕捉し,また動的光散乱法(DLS)との比較から溶液中の分子種推定ができることを示した. ダプトマイシンは多官能性の中分子であり,SMART-EM法を適応するためには適切なナノ観察場を設計する必要がある.国際共同研究を通じて,第一級アミンと高い選択性で反応するホウ素官能基(KAT)をカーボンナノチューブ(CNT)に導入することに成功した.この新たに合成したペプチドを対象とした分子釣り針とダプトマイシンを適切な反応条件のもと反応させ,SMART-EMイメージングによって,ダプトマイシン単量体が精緻に構造解析できることを実証した.つづいて,この観察場を利用することによって,水溶液中でカルシウムイオン依存的に生起するダプトマイシンの自己集合体を一分子一分子ずつ釣り上げ,その統計分布解析を行った.検討した条件において,単量体から4量体が存在していること,ならびにそれらの構造特徴が単分子観察とDLSの検討から明らかとなった.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究によって,ペプチドの単分子SMART-EM観察ができること,ならびにカルシウム依存的に生起する自己集合体の釣り上げと生成分布が議論できることを実証した.ダプトマイシンだけでなく本研究手法の更なる適応可能性も見いだしつつあるため,今後の研究の推進方策として多岐にわたる分子群やタンパク質などについて鋭意検討する予定である.以下,考えられる展望のうちの1つを示す. アミロイドベータ(Aβ)の制御不能な凝集挙動に対する知見獲得が望まれているが,分析手法の欠如が問題となっている.凝集の起点となるβ-turn部位を有するAβモデルペプチドを利用して,SMART-EM検討を進める予定である.ダプトマイシンよりも構造が大きいので,必要に応じて構造中に適切なマーカー部位を導入して解析を進める.
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