2022 Fiscal Year Research-status Report
新奇光制御型足場材料を用いたがん細胞動態の時空間分析法の開発
Project/Area Number |
22K14705
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
山本 翔太 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 研究員 (10785075)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | バイオ分析 / メカノバイオロジー / ゲノム編集 / バイオマテリアル / がん細胞 / 細胞足場材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質の発現や局在、定量化など、分析対象として細胞を扱うバイオ分析の発展により、観測精度やハイスループット性が劇的に向上し、癌の早期検出や治療薬発見など医療分野に対して高い貢献を果たしている。しかしながら、次世代の分析技術が開発される流れとは逆行し、対象となる細胞は、未だにポリスチレンディッシュやハイドロゲルなどの静的な人工物で評価されている。これは生体内の細胞が、細胞外マトリックス環境から化学・力学的な刺激を動的に受け続けることを考慮すると、現在までに使用されている足場材料では生体内の現象を正確に捉えているとは言い難い。そこで本研究では、化学・力学特性を光で制御可能な足場材料を開発し、細胞の動態変化をバイオ分析することを目標としている。 初年度では、足場材料の力学特性を制御するため、ゲノム編集技術であるCRISPR-Casシステムを光機能化したツールの作製を行なった。まず既存のCRISPR-Casタンパク質を分割し、そこに光応答性分子を導入した光応答性CRISPR-Casを作製し、そのDNA切断効率を調べた。すると、開発した光応答性CRISPR-Casシステムは、光照射時において効率良くDNAを切断したのに対して、光照射を行わない状態ではほぼ活性を示さなかった。この結果より、開発したツールは光照射で活性を制御できることが示され、このタンパク質を用いることでハイドロゲルの架橋部位を切断し、弾性率を調節できることが示唆された。続いて、細胞足場材料の作製を行なった。アクリルアミドからなるハイドロゲルを作製し、条件検討を行うことで弾性率が対象とする臓器と同等になる足場材料が得られた。この材料の上で細胞を培養することで、これまでの報告通り弾性率に応じて細胞の接着挙動が変化することを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、生体内の細胞が基質から物理的な刺激を受け続けていることを念頭に、化学・力学特性を光で制御可能な足場材料を開発するためのツールを作製した。はじめに、ハイドロゲルの力学特性を制御するためのツールとして光応答性CRISPR-Casシステムの作製を行なった。まずCRISPR-Casを分割することで活性を失わせ、その分割箇所に光応答性分子を導入することで、光照射により活性を回復させる戦略で実験を実施した。すると、開発した光応答性CRISPR-Casは、光照射前の状態でDNA切断活性がコントロールサンプルと同程度であった。これは分割することによりCRISPR-Casの構造が変化し、予想通り不活性になっていることを示唆している。次に、この光応答性CRISPR-Casに光を照射すると、効率よくDNA切断が起きた。これは、光照射によって分割したCRISPR-Casタンパク質が、光応答性分子を介して元の構造に戻り、結果として活性が回復したことを強く示している。その後、Casタンパク質の分割位置を検討することで、最も効率の良い光応答性CRISPR-Casの作製に成功した。 続いて、細胞足場材料の作製を行うことを目的とし、アクリルアミドからなるハイドロゲルを作製した。モノマーおよび架橋剤濃度等の条件を検討することで、弾性率が5~50 kPaの範囲で2種類の足場材料が得られた。この材料の上で細胞を培養することで、これまでの報告通り弾性率に応じて細胞の接着挙動が変化することを確認できた。 以上のように今年度は、ハイドロゲル細胞足場材料の力学特性を制御するためのツールおよびその土台の作製に成功した。さらにバイオマテリアルやゲノム編集に関連する投稿論文も発表した。これらの理由から、本年度は期待通りの成果を挙げたため、進捗状況は「おおむね順調に進展している。」と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の計画として、昨年度に開発した光応答性CRISPR-Casタンパク質とアクリルアミドゲルを組み合わせて光応答的にハイドロゲルの物理特性を変化させる細胞足場材料の開発を行う。具体的には、光応答性CRISPR-Casを封入し、表面にcRGDなどの細胞接着性分子を修飾したハイドロゲルを作製する。その後、細胞を培養し、光照射に伴う架橋点の切断により弾性率を変化させ、がん細胞の接着挙動や集団移動挙動、さらには細胞機能の変化を顕微鏡観察や免疫染色、ウエスタンブロッティング、RT-PCR測定により調査する。この一連の実験を経て、足場材料の作製から評価するまでの実験系を構築する。その後、より生体環境に近しい材料の作製を目的とし、ハイドロゲルの成分をアクリルアミドではなく、コラーゲンやヒアルロン酸など生体適合性の高い分子に変更し、ハイドロゲル足場材料の開発を目指す。このような材料で同様の実験が実施できれば、二次元培養だけではなく、三次元培養での検証も行うことができ、本研究プロジェクトで開発する足場材料の応用の幅が広がると考えている。将来的には、生体模倣型のこの足場材料を薬剤スクリーニングやがん細胞の動態予測に用いるプラットフォームとして研究を進めていくことを計画している。また上述した実験に追加し、開発した光応答性CRISPR-Casシステムをゲノム編集ツールとして利用することも検討している。現状ではハイドロゲルの力学特性を制御する目的で開発をしているが、効率よく細胞等の遺伝子を編集するための改良を行うことを計画している。 以上のように、バイオマテリアルと分子生物学を融合することで分析対象となる細胞の機能を制御することで、生命現象を解明する新しい分析手法を提案したい。
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Causes of Carryover |
研究代表者は本若手研究を申請する際、日本学術振興会特別研究員PDとして東京大学で実験を実施していたが、採択後の2022年4月に物質・材料研究機構の研究員に着任した。当初2022年度の研究計画では、前所属の研究室が分子生物学の研究を実施していたこともあり、保有していない材料開発に必要な装置および試薬を購入するための予算を申請していた。しかし異動先である物質・材料研究機構の研究グループは、材料開発の研究を実施していることもあり、研究に必要な設備等が揃っていた。そのため、申請した試薬等の購入の必要がなくなったため次年度使用額が生じた。2022年度の状況とは反対に、2023年度はバイオロジーや分子生物学の研究を実施するため、それに応じた装置や試薬を購入する必要がある。そのため、繰り越した研究費で研究計画の実施に必要な物品・試薬等を購入する予定である。
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