2022 Fiscal Year Research-status Report
ビニルボロン酸誘導体の重合化学:モノマー設計と側鎖置換を鍵とした革新的高分子合成
Project/Area Number |
22K14724
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西川 剛 京都大学, 工学研究科, 助教 (30826219)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ラジカル重合 / ホウ素 / 高分子反応 / モノマー設計 / ポリビニルアルコール / 立体規則性 / 分岐ポリマー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまずビニルボロン酸ピナコールエステル (VBpin)のラジカル重合と高分子反応によるホウ素側鎖の酸化により、ポリビニルアルコール (PVA)の合成を試みた。ホウ素側鎖の酸化は定量的に進行したものの、得られたポリマーは酢酸ビニルのラジカル重合と鹸化によって得られる通常のPVAとは異なる構造を有していることが示唆され、詳しく検討を行った。その結果、VBpinのラジカル重合におけるバックバイティング型の連鎖移動と生成したラジカル種からの重合が繰り返されることにより、分岐構造が生じていることが分かった。PVAの前駆体モノマーとして一般的に用いられる酢酸ビニルのラジカル重合においても連鎖移動は起こるものの、鹸化の際に分岐構造は失われてしまうために分岐構造を有するPVAは通常、合成が困難である。分岐PVAは通常の直鎖PVAと比較して固体状態における結晶性が低く、常温の水に迅速に溶解するという特徴を有しており、今後の詳細な検討により興味深い物性の発現が期待される。また、アントラニルアミド骨格をベースとしたホウ素上保護基を有するビニルボロン酸誘導体のラジカル重合性について詳しく検討を行ったところ、アミド上への置換基導入によって連鎖移動が抑制され、得られるポリマーの分子量が劇的に向上することが分かった。量子化学計算によりその原因について検討を行ったところ、バックバイティング型の連鎖移動により生じるラジカル種がホウ素上保護基の立体効果によって不安定化しているためであると示唆された。また、特定の置換基導入により重合時の立体規則性が制御されることも分かりつつあり、得られたポリマーのホウ素側鎖を立体情報を維持しつつヒドロキシ基へと変換することにより、アイソタクチックリッチなPVAの合成に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画においてはホウ素上保護基設計と重合後の主鎖上ホウ素の変換により、立体規則性が制御された幅広いビニルポリマーの合成を目指した。本年度において立体規則性に影響を与える保護基設計を見出しつつあり、この点において研究は順調に進展している。加えて、ピナコールをホウ素上保護基として用いた場合には連鎖移動による分岐構造が生じることも明らかになり、今後の研究でホウ素の様々な変換を確立することで、立体規則性のみならず分岐構造をも自在にチューニングした幅広い一時構造を有するポリマーの合成が可能になると期待される。よって本研究は当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はPVAにおける分岐構造が物性・機能に与える影響について詳細を明らかにするほか、分岐PVAを与えるVBpinと直鎖PVAを与える酢酸ビニルの共重合により、PVAの分岐密度の自在なチューニングを目指す。また、アントラニルアミドをベースとした保護基を有するホウ素モノマーによる立体規則重合に関して、アミド上置換基や重合条件(溶媒・温度・濃度・添加物等)の最適化による更なる立体規則性の向上を達成する。さらに、ホウ素側鎖変換についても水酸基化以外の反応を開拓することによって、様々な一次構造要素が制御されたビニルポリマーの自在合成技術の開発につなげる。
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Causes of Carryover |
当初の計画において、本年度はホウ素モノマーにおける保護基の基本骨格を幅広く検討する予定であったが、アントラニルアミドを基本骨格として用いる有効性が予想外に早く見出されたことにより、モノマー合成のために利用する研究費が当初計画よりも減少する結果となった。当該の次年度使用額はアントラニルアミド上置換基を詳細に検討するための合成試薬購入費として用いる予定である。
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