2022 Fiscal Year Research-status Report
Reconstruction of Rubber Elasticity Theory using Data Science and Computational Science
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22K14740
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
保田 侑亮 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究員 (00909377)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 高分子編目 / ゴム・ゲル / グラフ理論 / ゴム弾性理論 / 一軸伸長試験 / スカンランーケースの基準 / 粗視化分子動力学法 / シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
タイヤや免振材料のようなゴム・ゲル材料の物性を記述するために、これまで様々なゴム弾性理論が開発・精緻化され、材料設計に用いられてきた。しかし、各種古典ゴム弾性理論は実際のゴム・ゲルの力学物性を定性的には再現する一方、網目の不均一性を排除してメッシュサイズ並びに変形様式を均一と仮定するために定量性に欠ける。例として実際のゴム・ゲルの一軸伸長下では、系中の一部の短い鎖にひずみが集中し、ひずみ硬化は理論予測よりもかなり低ひずみで起こる。ゴム・ゲル材料の力学物性の定量的予測のためには網目の不均一性の取り扱いが不可欠である一方、実験的に観測することは難しいため、粗視化分子動力学法により不均一な網目の構造-物性相関の解明を試みた。 本年は、架橋完了時に均一なメッシュサイズの網目を形成する星形末端架橋型マクロマーをモデルとし、架橋率を調節することで様々な不均一性を持つ粗視化高分子網目を作成し、それぞれの系に対して分子動力学法を用いて一軸伸長計算を実行した。得られた応力伸長比曲線から各網目の弾性率を定量すると、とある架橋率で弾性率が発生し以降非線形に応力が上昇する傾向が確認された。またこの弾性率の架橋率依存性は分岐数によって異なり、4分岐に関しては過去の実験結果とおおむね一致したことから実験的に妥当なモデルが形成されたと判断し、構造解析を行った。 架橋点をノード、部分鎖をエッジとして網目をグラフとして扱い、古典ゴム弾性理論の一種であるScanlan-Caseの基準を参考に弾性に寄与しないエッジを排除して弾性的に有効なエッジのみを検出して有効部分鎖として定義し、弾性率との定量的比較を行った。その結果、弾性率は単に部分鎖数に比例するわけではなく、有効部分鎖により形成される有効閉曲線数に比例し、この比例係数は分岐数、部分鎖長に依存しない定数となることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の5年間での研究計画としては、①からみあい・分子間相互作用の少ない均一・不均一網目を対象に架橋密度・部分鎖長分布等の構造パラメータを調節して大量の網目を作成、網羅的に変形シミュレーションを行う。②グラフ構造解析により網目の構造を解析し、弾性・破壊物性に寄与する構造・記述子を抽出、特に不均一性を表現するパラメータを新たに定義して力学モデルを構築する。③からみあいを多く含む不均一ゴムに対して、より精緻な計算手法により現実の材料に即した分子間相互作用を導入し、同様の力学物性計算を行う。④からみあいと分子間相互作用の効果を力学モデルに導入・拡張する、という手順で本研究課題を進める予定であった。 初年度の主な成果として、tetra-PEGを参考に架橋完了時に均一なメッシュサイズの網目を形成する星形末端架橋型マクロマーをモデルとし、部分鎖長、分岐数、架橋率を調節することで様々な不均一性を持つ粗視化高分子網目を生成するプログラムを新規に作成し、作成した網目に対して分子動力学法を用いて一軸伸長計算を網羅的に実行した。さらに網目のグラフ構造解析を行うことで、弾性に寄与する部分鎖の検出に成功し、弾性率は単に有効部分鎖数に比例するのではなく、有効部分鎖により形成される有効閉曲線数に比例することを明らかにした。また、この比例係数は分岐数、部分鎖長、架橋率に依存しない定数となることから、編目の不均一性は弾性率に大きく寄与しないことが明らかになった。加えて、弾性率の架橋密度依存性がおおむね実験と一致することから、力学物性の検証に関しては実験的妥当性も確認した。以上より①は十分に、②は部分的に実現できていると考えている。 以上より、初年度の進捗としてはおおむね順調と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度までに異なる不均一を持つ網目に対してグラフ構造解析を用いて有効部分鎖を検出し、弾性率に寄与する構造が有効閉曲線数であり、両者が比例関係にあることを明らかにした。このことから、今回試した系においては線形弾性域の力学物性に対して編目の不均一性が大きくは寄与していないことが明らかになった。 そこで2年度目以降はひずみ硬化のような高伸長領域での力学物性とグラフ構造の定量的比較を行う手法を開発し、高伸長物性に寄与する応力集中鎖のような構造をグラフ構造から検出する手法を開発する。加えて、星形末端架橋エラストマーだけでなく、PDMS型など他の架橋様式を持つ架橋エラストマーに関しても同様の構造解析を行い、今回のグラフ構造解析による弾性率予測の一般性を確認すると同時に、グラフ構造・高伸長域での物性比較により編目の不均一性を表現できるパラメータを新たに定義、架橋様式と不均一性の相関解明を試みる。そのほか、当初の計画にあるように、平面伸長のような多軸の変形における力学物性と構造の相関にも着手する。 これまでの知見として、粗視化網目に対し一定の破断エネルギーが印加された際に破断する条件を導入したところ、この破断エネルギーが高伸長下での力学物性に影響することを確認している。そこで実験に近い条件にて伸長破壊シミュレーションを行い、実験結果との比較を行うことで、定量的に破壊物性を取り扱うことのできる粗視化モデル構築を目指す。
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Causes of Carryover |
初年度にサーバーもしくはワークステーションを一台調達予定であったが、半導体不足による本体価格高騰、並びに調達納期の遅れにより、要求仕様を満たすマシンを当該年度中に調達することが難しくなったため。 そのため当該年度は公募型の大学共同利用スパコンにて計算資源を調達。また、新型コロナウイルスの蔓延により海外出張が難しく、当初の想定よりも旅費を使わなかったため。 2年度目にサーバー調達費、電気代並びに出張費として使用予定である。
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Research Products
(3 results)