2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K14760
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
山口 晃 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (00756314)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 二酸化炭素還元 / 金属硫化物 / 水熱条件 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、通常とは異なる水熱条件下において電気化学的二酸化炭素還元反応を駆動させることで、電気化学反応における温度、圧力の影響を調べ、電気化学反応における新たな知見を提供する。独自に開発した水熱電気化学フローリアクターを用いることで、通常は従属関係にある温度と圧力の独立制御を可能にした。 これまでの研究では、その前段階として、金属硫化物を触媒として用いた電気化学ではない熱水下での反応において、二酸化炭素の還元反応に対する活性パラメータの抽出を行った。実験としては、バイアル瓶に金属硫化物の分散水溶液と二酸化炭素、水素を封入し、80℃で加熱することで反応を行った。複数の金属硫化物触媒に対して同様の実験を行い、得られた活性と各金属硫化物の物性パラメータのデータセットに対して重回帰分析を行い、活性と相関の高い物性の抽出を行った。 18種類の単金属硫化物を触媒として用いて反応を行ったところ、一酸化炭素やメタンが生成物として得られ、特に硫化銅や硫化コバルトを触媒として用いた際に多くの一酸化炭素の生成がみられた。さらに、これらの触媒では、同時にギ酸や酢酸も生成物として得られた。 続いて、得られた18種類のデータセットに対して、生成物の変換効率を目的変数、12種類の物性パラメータを説明変数とした重回帰分析を行うことで活性に寄与するパラメータの抽出を試みた。その結果、一酸化炭素生成に関しては有意な結果は得られなかったが、ギ酸、および酢酸生成においては金属-硫黄結合長や金属-硫黄-金属角度など、構造的なパラメータが活性に大きく影響していることが明らかとなった。 さらに、銅と鉄を複合化させた金属硫化物ではさらなる酢酸生成の向上が観測された。金属硫化物を触媒として用いた際に酢酸が生成することはこれまであまり報告がなく、今後水熱電気化学へと移行した際に新たな知見をもたらすと期待できる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的である水熱電気化学における二酸化炭素還元反応を推進させるためには、既設の水熱電気化学フローリアクターを改良する必要がある。すなわち、現行では作用極、対極、参照極が一室に収まっている仕様から、対極と作用極をイオン交換膜で隔てた二室型にする必要がある。この改良に向けて、現在図面の作製ならびに適切なイオン交換膜の選定を行っている最中であり、これらが完成し次第、本研究の中心となる水熱環境下での電気化学的二酸化炭素還元の推進を行う。 一方で、事前検討として行っている水熱下での二酸化炭素と水素の反応では、ある種の金属硫化物を用いた際に一酸化炭素やメタンにとどまらず、酢酸の生成が確認されている。二酸化炭素と水素の反応でこのような炭素を二つ以上含む生成物が得られる例は非常に珍しい。また、本研究において行った重回帰分析では酢酸生成に重要な物性パラメータが提示されたことから、この結果を基にして触媒開発を進めて行く上で、二酸化炭素から効率的に酢酸を合成可能な触媒が見出される可能性がある。現在は電子源として水素を用いているが、ゆくゆくはこちらを電気化学系に置き換えることでより効率的な反応系となりうることが期待できる。 以上より、当初の計画達成のための準備を進めつつ、金属硫化物を用いた新たな二酸化炭素還元触媒の設計指針を提示したという観点から、総合的に研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在、より精密な水熱電気化学反応を行うため、現行リアクターの改良を行っている段階である。こちらが完成し次第、水熱下での二酸化炭素還元反応に取り掛かる。事前検討で検証を行った酢酸を生成する鉄と銅の複合硫化物を電極触媒として用い、この反応効率が温度、圧力、また電位やpHによってどのように変化するかを系統的に調べる。これらにより得られたデータから、各パラメータがどのように反応に寄与しているかを検証する。例えば、水の同位体中で反応を行うことで速度論的同位体効果を測定し、温度や圧力がプロトン移動にどのように影響しているかを調べ、可能ならばモデル化、定式化を行う。これらを通し、広く電気化学反応、特に水熱条件下における電気化学反応速度に対する温度、圧力の影響の定式化を行う。 発展形として、温度や圧力といったパラメータは電極材料自身の物性(表面電位や酸解離定数)にも影響を与えることが予想されるため、こちらに関しても第一原理計算などを用いて定性(望むらくは定量)的に理解し、二酸化炭素から酢酸などの付加価値の高い化合物を効率的に生成する触媒の設計を推進していく。
|