2023 Fiscal Year Research-status Report
リチウムイオン電池次世代正極での導電助剤炭素材料の劣化機構の解明
Project/Area Number |
22K14768
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
稲本 純一 兵庫県立大学, 工学研究科, 助教 (20816087)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | リチウムイオン電池 / リチウム過剰型正極材料 / 導電助剤炭素材料 / 劣化機構 / 表面分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
次世代リチウムイオン電池用の高エネルギー密度正極活物質としてハイニッケル系材料やリチウム過剰型材料が期待されている。これらの作動電位は従来材料より高いため電極全体の性能低下に繋がる導電助剤炭素材料の劣化が起こりやすい。炭素材料の表面では高電位での電気化学的酸化とこれらの活物質から放出される一重項酸素による化学的酸化が、内部では電解質アニオンの挿入による構造劣化が起こると考えられる。しかし、特に一重項酸素による炭素材料の酸化挙動や、アニオン挿入に影響を与える結晶性以外の炭素材料の因子はこれまで明らかにされていない。本研究ではこれらを基礎的に明らかにすることで、次世代リチ ウムイオン電池での導電助剤の劣化抑制のための指針を得ることを目指した。本年度は主にリチウム過剰型正極材料から発生する一重項酸素による炭素材料の酸化劣化挙動に着目して研究を行った。HOPGを基板としてその表面にリチウム過剰型材料をPLD法により蒸着した電極をモデル電極として用いて、その高電位での定電位保持前後でのHOPGの表面近傍の酸素量の変化を調べた。その結果、蒸着をしていないHOPGのみを定電位保持試験した後では、XPSの結果より含酸素量が変化しなかった一方で、蒸着をしたHOPGでは酸素量の増加が認められた。またArエッチングを行ったところ、比較的内部の領域でも酸素の存在が認められた。このことから、一重項酸素が炭素材料の酸化劣化を引き起こす可能性が示唆された。今後は一重項酸素を放出しない正極材料についても同様の検討を行い、炭素材料の酸化に与える一重項酸素の影響についてより詳しく調べる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の仮説通り、リチウム過剰型正極材料から発生する一重項酸素が導電助剤炭素材料の酸化劣化を引き起こす可能性を明らかにした。一方で、モデル電極の作製方法や対照実験の条件設定等について当初の予想よりも時間がかかってしまったこともあり、議論の信頼性を上げるための追加の実験まで十分には手が回らなかった。今後は対照実験等も行うことで議論の精密性を上げることが必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はより議論を強固にするための対照実験を行い、一重項酸素が炭素材料の酸化劣化に与える影響についてより明確にする。また、前年度までに得られた炭素材料へのアニオン挿入による劣化機構について得られた知見も組み合わせながら、導電助剤炭素材料の劣化メカニズムについて総合的な考察を行う。
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Causes of Carryover |
次年度はこれまでの研究内容をまとめて論文等として出版予定である。研究当初は通常の論文として出版することを考えていたが、昨今の事情を鑑みてオープンアクセス論文として出版することに変更した。また、研究当初よりも大幅な円安が進行しており、オープンアクセス費用は非常に高騰している。そのため、論文出版費用の足しにするため次年度に少し予算を留保することとした。
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