2022 Fiscal Year Research-status Report
システインパースルフィド含有タンパク質の化学合成と生理的意義の探求
Project/Area Number |
22K14784
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
武居 俊樹 大阪大学, 蛋白質研究所, 助教 (00844771)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フォールディング / システインパースルフィド / ペプチド合成 / タンパク質合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、システインパースルフィド (Cys-SSH) を有するペプチド (タンパク質) の物性を仔細に調査し、タンパク質のフォールディングに対する影響を検証することで、Cys-SSHの新たな生理的意義を探求することを目的として行う。この目的を達成するため、化学合成の手法を駆使することで均一なCys-SSH含有ペプチド (タンパク質) を調製する方法を確立し、その物性を評価する。また、フォールディングの速度に及ぼす影響を検証し、Cys-SSHの潜在的な機能を明らかにする足掛かりを得ることを目指している そこで本年度では、まず均一なCys-SSH含有ペプチドを調製する手法の開発を試みた。その結果、ペプチド合成で汎用される保護基の一つであるトリチル基を構造内に持つ、トリフェニルメタンチオールをCysとSS結合により架橋した後、酸性条件下で脱保護するだけの簡便な手法でCys-SSHを有するペプチドを調製することに成功した。続いて、得られたCys-SSH含有ペプチドの安定性を検証したところ、酸性条件下ですら徐々に分解していくことが観測された。そこでCys-SSHの安定性を増加させる添加物の検討を進めたところ、アセトニトリルや糖類の添加により安定性が増加することを見出した。その一方で、Cys-SSH含有ペプチドを安定的に単離することは困難であったため、続くフォールディング反応を見据え、グルタチオンをトリスルフィド結合により架橋した「Cys含有ペプチドの等価体」を調製した。 今後は、引き続きCys-SSH含有ペプチドの安定性を検証するとともに、グルタチオンをトリスルフィド結合で架橋した等価体を用いたフォールディング反応の検討を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、均一なCys含有ペプチド (タンパク質) を調製する手法の開発を目指し、種々の検討を行った。その結果、CysのSHに対してトリフェニルメタンチオールをSS結合により架橋するだけの簡便な手法でCys-SSH含有ペプチドを調製することに成功した。しかし、Cys-SSH含有ペプチドは極めて不安定であり、種々の添加物により安定化を図っても単離することが困難であることが明らかとなった。しかし、小胞体内は酸化型グルタチオン濃度が高い酸化的環境であるため、タンパク質に含まれるCys-SSHは速やかにグルタチオンとのトリスルフィド結合を形成すると考えられる。このため、Cys-SSH含有ペプチドの等価体として、グルタチオンとのトリスルフィド結合を有するペプチドを調製することとし、これに成功した。 以上のように、Cys-SSH含有ペプチドを簡便に調製する手法の開発に成功した一方、Cys-SSH含有ペプチドが極めて不安定であるという重要な知見が得られた。また、グルタチオンとのトリスルフィド結合により架橋したCys-SSH含有ペプチド等価体の調製に成功した。これらの結果は、当初想定していた本年度の計画をほぼ満たすものであり、ほぼ計画通りに進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、Cys-SSH含有ペプチド等価体を用いてフォールディング反応の検討を進める。具体的には、グルタチオンを用いた酸化還元系によるフォールディング反応を種々のpHで試み、その反応速度や挙動を仔細に調査する予定である。
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Causes of Carryover |
代表者は、昨年度の7月に現所属研究室である蛋白質研究所の蛋白質有機化学研究室へと異動した。同研究室は代表者の出身研究室であり、ペプチド・タンパク質の化学合成およびその方法論の開発を進めている。当初予算執行計画では、ペプチド合成用試薬等の消耗品を多く計上していたが、当該研究室に残余している合成用試薬等を効率的に使用できた。また、それによっても当初の研究計画について概ね順調に進行している。一方、合成用試薬等の残余は既になく、本年度は多くの合成用試薬および消耗品である逆相カラム等の購入を予定しているほか、フォールディングに必要な試薬等を購入する。引き続き研究計画に従い研究を遂行することで、当該研究課題の達成に向けて研究を加速していく。
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