2022 Fiscal Year Research-status Report
近赤外二光子吸収能を持つベンゾピラン型ケージド化合物の開発と生理学実験への応用
Project/Area Number |
22K14785
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
千歳 洋平 九州大学, 工学研究院, 助教 (60911534)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 2光子吸収 / ベンゾピラン骨格 / D-π-D |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究において目的とする近赤外領域(680-1050 nm)に高い2光子吸収断面積を有する有機色素を開発するためには、1光子吸収帯の極大吸収波長がおよそ700 nm以上であることが好ましい。設計したD-π-D型ベンゾピラン骨格(発色団)について、DFT計算(B3LYP/6-31G(d))を行ったところ、430-470 nm付近に吸収極大波長を有することが量子化学計算によって予測された。このことから、設計した骨格が700 nm以上で2光子極大吸収波長を有すると期待された。まず、発色団の合成を行うため、研究計画に沿った合成経路に従って合成を試みた。はじめにローソン試薬を用いて、市販の7-ジメチルアミノ-4-メチルクマリン(1)からクマリンの2位のケトン基をチオニル基に変換する反応を行った。反応は進行し、7-ジメチルアミノ-4-メチル-2H-クロメン-2-チオン(2)を収率94%で得た。その後、ベンゾピラン骨格を得る反応を行うため、化合物2と別途合成したジアゾ化合物4,4'-ジアゾメチレンビスN,N-ジメチルアニリン(3)との環化付加反応を室温下で試みた。しかし、目的となる環化付加体は得られず、おそらくジアゾ体3の不安定性が、反応が進行しない原因と考えられた。チオクマリン2をジアゾ化し、ビス(4-(ジメチルアミノ)フェニル)メタンチオン(4)との環化付加反応も試みようとしたが、クマリンのジアゾ化する前段階で合成したヒドラジン体が不安定であったため、反応を行うことができなかった。そこで、チオクマリン2のチオニル基をハロゲン化し、ジメチルアニリンのBpin体との鈴木宮浦カップリングによって目的となるベンゾピラン骨格の合成を試みた。しかし、この反応もチオクマリンのハロゲン化が進行しなかったため、反応を行うことができなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究で最終目的としている細胞内における近赤外2光子アンケージング反応を行うためには、まずベンゾピラン型保護基を合成し、アミノ酸などの生物活性物質の光脱保護反応の効率を算出する必要がある。その予備段階としてまず、ベンゾピラン型発色団の合成を達成しなければならない。量子化学計算から設計したD-π-D型ベンゾピラン発色団は近赤外領域に2光子吸収を持つと予想されるため、保護基を合成した後、活性物質のモデル化合物となる安息香酸を保護し、光照射後のアンケージング反応を確認する必要がある。しかし、現段階では、目的となる発色団の合成経路において反応が進行していないケースが多く、用いる試薬や温度、溶媒検討などの反応条件についてさらなる改善が必要となっている。市販の7-ジメチルアミノ-4-メチルクマリン(1)からチオクマリン(2)の合成はすでに成功しているため、2とジアゾ体との環化付加反応か、2のハロゲン化を行い、鈴木宮浦カップリングによってベンゾピラン骨格の形成反応を成功させることが、今後の発色団部位を得る上で重要な反応となってくる。発色団が合成され次第、トルエン溶液中での2光子励起蛍光法を用いた2光子吸収断面積の算出を行う。さらに、発色団に保護基部位を導入し、ケージド安息香酸の合成を行い、フェムト秒レーザーによる2光子アンケージングを実施する。そのため、発色団の合成経路を再度見直し、より一層研究計画の推進を図る必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
目的となるベンゾピラン型発色団の合成経路について、当初の計画通り反応が進行しない場合には、合成反応の経路全体を見直す必要がある。具体的には、まず、既に合成を達成しているチオクマリン(2)から先の反応について、2から既存のジシアノベンゾピラン体を合成し、シアノ基をカルボキシル(COOH)基に変換したのち、COOH基とジメチルアニリンのBpin体との鈴木宮浦カップリング反応を試みる。チオニル基からカルボキシル基に変換できない場合は、マロン酸ジエチルのナトリウム塩を合成し、市販の7-ジメチルアミノ-4-メチルクマリン(1)との反応、続く加水分解反応によってCOOH基への直接変換を行う。チオニル基からのハロゲン化の反応については、プロトンスポンジとTFDAを試薬として用いたチオニル基からジフルオロ体への変換反応が過去に報告されているため、こちらを参考に合成を試みる。もしくは、原料としてビス4-ニトロフェニルメタンか4,4'-メチレンビスN,N-ジメチルアニリンのナトリウム塩を合成し、クマリン1との反応によって直接ベンゾピラン骨格の合成を狙う。発色団の合成を達成したのち、保護基も同様に合成を行い、ケージド安息香酸の合成に取り掛かる。その後、1光子励起によるアンケージング反応の効率と2光子吸収断面積の算出を行い、場合によっては発色団部位の電子供与基部位の改良や、保護するカルボン酸の検討など行い、光アンケージング反応の最適化を図る。
|