2023 Fiscal Year Research-status Report
多環芳香族炭化水素を生分解するパイオニア微生物と“脇役”たちの共存機構の解明
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22K14813
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
守 次朗 横浜市立大学, 理学部, 助教 (10835143)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 石油分解微生物 / 多環芳香族炭化水素 / ゲノミクス / 微生物間相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
沿岸海水から得られた多環芳香族炭化水素を生分解する海洋細菌コンソーシアムより、PAHの一種であるフェナントレンを生分解する新規の細菌Sagittula sp. MA-2株を単離した。さらに、このMA-2株について、その完全ゲノム配列の解読に成功した。ゲノム解析の結果、MA-2株はゲノム中に主要染色体に加えて8つの環状プラスミドを有するユニークな性質をもっており、このことは、外来遺伝子を活発にゲノム中に取り込む生活様式をとっていることを示唆していた(Abe et al., Marine Genomics, 2023)。実際に、MA-2株がもつプラスミド上の遺伝子から、PAHの生分解に関わると推定される酵素群をコードする遺伝子クラスターを発見した(Mori et al., 13th Asian Symposium on Microbial Ecology,口頭発表)。MA-2株が生分解したフェナントレンは、その一部がフタル酸に変換され、これを同じコンソーシアム中で優占するThalasosspira属が栄養源として利用して増殖する(Kayama et al., Microbiol. Spectr., 2022)という、新規のPAH生分解「パイオニア」と「脇役」細菌の関係性を見出すことができた(論文査読中)。 また、優れたPAH生分解能をもつ土壌細菌Sphingobium barthaii KK22株が産生する代謝産物が、単環芳香族を分解するAchromobacter属細菌の増殖を特異的に促進する現象を発見した。これは、PAH生分解パイオニア微生物と共存する「脇役」微生物との間で進化した独自のコミュニケーション機構の存在を示唆している(投稿準備中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
沿岸海水試料から新たに確立したPAH生分解海洋細菌コンソーシアムから、新規のPAH生分解パイオニア細菌であるSagittula属の単離株を得ることに成功し、そのユニークなゲノム構造を解明することができた。さらに、同じコンソーシアムで共存するThalassospira属との栄養依存関係について、それぞれの単離株の培養試験とゲノム解析を通して解明することができた。 その他、当研究課題に関連する研究成果として、3報の論文を投稿準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、PAH生分解パイオニア細菌であるSphingobium属と「脇役」細菌であるAchromobacter属の特異的なコミュニケーション機構について実証するために、以下の2点に特に注力して研究を遂行する予定である。 (1)Sphingobium属の培養物に含まれる代謝産物の網羅的な解析、および異なる手法を用いた分画法により、Achromobacter属の増殖を促進するシグナル分子の特定を目指す。 (2)Achromobacter属単離株の完全ゲノムの解読と遺伝子発現挙動の解析により、増殖の促進が引き起こされる機構について理解する。 これらの試みにより、PAH生分解能を発揮するSphingobium-Achromobacter間で進化した新規の異種細菌間コミュニケーション機構を発見できると期待される。
その他、現時点で得られている研究成果について、論文の執筆に注力する。
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Causes of Carryover |
国際学術誌への論文掲載料のための予算を確保していたが、年度内に論文の受理に至らなかったため、残余が生じた。残額は次年度、当初の予定通り使用する他、所有する分析機器の持続的な使用のための整備費などに充てる予定である。
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