2023 Fiscal Year Research-status Report
原始植物ホルモン受容体-リガンドを用いた人工的逆進化によるジャスモン酸応答制御
Project/Area Number |
22K14834
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
加治 拓哉 東北大学, 理学研究科, 助教 (80835520)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 植物ホルモン / ジャスモン酸 / ケミカルバイオロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究では始原ジャスモン酸受容体-リガンドを用いて、高等植物の植物内でキメラ受容体を作成することで、原始的な合成リガンドによるシグナル伝達を先祖返りさせ、部分的なジャスモン酸シグナルの活性化が可能かどうかを明らかにすることを目指している。当該年度においては、本申請研究の一環として下記を実施した。 1) 昨年度合成を達成した、ゼニゴケにおいて新たに見出されたジャスモン酸リガンドdelta4-dn-iso-OPDAについて論文投稿を行うため、ゼニゴケのジャスモン酸応答の評価を実施した。また、他のコケ植物類を含めた始原ジャスモン酸リガンドの分布を評価するための定量的な代謝分析のため、重水素標識化したリガンド類の合成を新たに行い、LC-MS/MS解析を行った。現在、論文を投稿、査読対応中であるため、結果の詳細については省略する。 2) 昨年度から、人工的先祖返りの概念実証を目的としたシロイヌナズナ形質転換体の作成を開始し、T0種子から得られたヘテロ株よりT1種子を得ていた。今年度は、ホモラインの確立のため、得られたT1ラインについて栽培し、genotypingと薬剤耐性を組み合わせたスクリーニングによりT2ラインを得た。得られたT2ラインについて、genotypingでの確認を行うことで、ホモライン候補がMpCOI1導入体とAtCOI1再導入体についてそれぞれ得られた。すなわち、人工的先祖帰り変異体であるProm(COI1)::MpCOI1-FLAG in coi1-30のMpCOI1-FLAG導入についてホモ、coi1-30変異についてヘテロなT2種子と、Prom(COI1)::AtCOI1-FLAG in coi1-30について、AtCOI1-FLAGおよびcoi1-30変異どちらもホモなT2種子を得ることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は申請研究の概念実証に必要不可欠なシロイヌナズナの変異体の導入遺伝子のホモラインについてそれぞれ得ることができたものの、変異体を用いたジャスモン酸の部分的活性化の実証といった生理応答評価まで至らなかったことからやや遅れていると評価した。 なお、変異体のT2ラインの構築・選別の過程で、予備的な知見ではあるものの、MpCOI1-FLAG homo/coi1-30 homoの変異体に対して始原ジャスモン酸リガンドであるdn-iso-OPDAを投与しても種子がつかず、不稔性が解消しないことが示唆された。稔実性はジャスモン酸の重要な生理機能の一つであり、MpCOI1-dn-OPDAの始原受容体-リガンドの組み合わせでは相補されていない可能性がある。このことは、人工的先祖帰りのコンセプトが計画通りin plantaでのジャスモン酸応答の部分的活性化として確認できる可能性を示唆することから、今後得られたT2個体からT3種子を構築し、十分な変異体種子の獲得と、続く生理応答解析を実施する計画である。 一方で、ゼニゴケについて所属研究室とスペインのSolano教授らとの共同研究で見出されたゼニゴケの新たな始原ジャスモン酸リガンドdelta4-dn-OPDA類について、標品の合成に基づく生理活性評価、重水素標識化体合成による微量ホルモン分子のLC-MS/MSでの定量分析を実施し、得られた結果について論文投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの2年間で、ゼニゴケを含むコケ植物における始原ジャスモン酸リガンド、dn-OPDAおよびdelta4-dn-OPDA類の重水素標識化体を含む化学合成を随時行い、シロイヌナズナを用いた生理応答の評価に十分な化合物は既に準備済みである。今年度の進捗で、人工的先祖帰りの概念実証を目的とした変異体の導入遺伝子に対するホモラインが得られたことから、今後はそれら変異体に対する始原ジャスモン酸リガンドの投与とそれによるジャスモン酸マーカー遺伝子の発現解析、また重要なジャスモン酸の生理応答に起因する形質として、稔実性、生長阻害、防御応答活性を中心に生理応答を評価する予定である。これら変異体を用いた実験を通して、人工的先祖返り変異体におけるジャスモン酸応答の部分的活性化のコンセプトについて論文として取りまとめる。 なお、構造的な議論に向け、ゼニゴケのCOI1受容体の結晶化検討について、上記進捗報告には記述しなかったものの並行して取り組んでいるが、昆虫細胞での発現量が少ないことで現時点で結晶化に十分なサンプルの調整が難航していることから、タンパク質の安定性の向上、抗体の利用など、いくつかの方策を合わせて検討する予定である。
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