2022 Fiscal Year Research-status Report
微生物生態系における自己組織化と機能の安定化機構の解明
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22K14906
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 研志 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (80870188)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 個体群内不均一性 / 自己組織化 / 代謝ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、自然環境をゼロから再構築するための枠組みの構築であり、その根幹を担う微生物生態系の形成・維持・変遷機構の解明を目指した。そのために微生物群が自己組織化し如何に機能を発揮するのかを個体群、1細胞レベルの代謝を解析した。複合微生物群は様々な微生物で構成されることから、その全てを解析するのは困難を極める。そこで本研究では、個体群内で自己組織化し、フェノール分解という機能において安定状態と不安定状態を持つComamoans thiooxydans R2株を用いた。フェノールを唯一の炭素源として連続集積培養した結果、フェノール分解に直接関与する細胞は全体の約10%以下に減少した。培養系内における細胞の生存率は約93%以上であり、大半の細胞が代謝産物等を利用し増殖していることが示唆された。即ち、限られた単一基質が供給される培養系でさえ様々な形質の細胞が存在することが示唆された。そこで、1細胞レベルの増殖を解析した結果、増殖速度および最大増殖量が異なる様々な代謝状態の細胞が混在していた。次に、非フェノール分解細胞が利用する基質を解析するため、連続集積培養系から培養上清を回収しR2株を培養することで、培養前後で増減する代謝産物を解析した。その結果、培養上清中での顕著な増殖は確認できない一方で、様々な代謝産物が培養上清中から消失することが示された。現在その代謝産物の同定を進め、個体群内に形成された代謝ネットワーク構造の解析を進めている。さらに、フェノール分解細胞と非分解細胞を分取し、それぞれの遺伝子転写を解析するため、R2株のphenol hydroxylse遺伝子群と同じ制御系にGFP遺伝子を導入し、その蛍光によって識別するシステムを構築している。これにより、代謝産物および遺伝子転写のレベルでR2株におけるフェノール分解機能維持機構解明を目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は微生物の自己組織化とその安定性維持機構の解明である。複数の微生物で構成される複合微生物群はその複雑さ故に困難を極める。そこで、本研究ではまず、個体群内で自己組織化していると考えられているComamonas thiooxydans R2株を中心に自己組織化機構の解明を進めている。初年度計画ではR2株における細胞レベルの増殖やサブ群集レベルでの代謝解析を計画しており、細胞間でやりとりされる代謝産物を検出することに成功している。一方で、その化合物の同定にはさらなる解析が必要であり、同定された化合物によるR2株の増殖試験や遺伝子転写解析も必要である。連続集積培養系内で代謝産物を利用する細胞の代謝状態、遺伝子転写を解析するためには、それらを分取する必要がある。そのため、GFP導入株の作成も進めており、フローサイトメーターによる分取および遺伝子転写解析も実施予定である。前述の様に複合微生物群の解析は難しい一方で、単離菌株を用いたモデル微生物群を用いることで、遺伝子転写等の解析は比較的解像度高く可能である。そこで、5種の微生物を用いたモデル微生物群を用いた解析を進めており、RNA-seqの結果から、基質競合関係が強いほど微生物群集構造としては不安定であることを見出しており、より高次元の微生物群の解析も進められている。加えて、培養上清中に含まれる代謝産物とその変化も解析を進めており、種間で共有される代謝産物の同定を進めている。以上のことから、研究計画で挙げた項目についておおむね順調に研究を進められていると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で重要な点は、微生物における代謝をサブ群集あるいは細胞レベルで解析しそのつながりを解析することである。そのためにまず、Comamoans thiooxydans R2株における個体群内不均一性を解析するためにGFP導入株の作成を進めている。今後はR2-GFP株の増殖を正確に評価し、フェノールを唯一の炭素源とする連続集積培養系を構築することで、フェノール分解細胞と非分解細胞をフローサイトメーターで分取し、その代謝状態を遺伝子転写レベルで解析する。1細胞レベルの代謝状態を評価するには様々な指標で細胞を観察することが重要である。そこで、SYBR Green I等の核酸を染色する色素を利用しフローサイトメーターで細胞内の核酸量に依存したパラメータを獲得する。また、顕微ラマンを用いることで細胞内のタンパク質や代謝産物、核酸等の違いを検出する。 Orbitrap-MSを用いた代謝産物の解析はおおむね順調に進んでいる一方で、モデル微生物群の各細胞による代謝産物利用を評価するためには少量での分析が必要不可欠である。そこで、培養上清の濃縮や代謝産物の抽出法の最適化を進めており、今後は96ウェルプレートでの解析を目指す。並行して、より感度の高い分析法の利用を検討しており、その一つとして高感度のラマン顕微鏡を上げる。本解析は徳島大学の加藤助教の協力を得て進めることを予定している。また、細胞間での代謝産物の授受を予測するため、複数種のゲノム情報に基づいたフラックスバランス解析を用いる。培養上清から検出された代謝産物の由来や生産過程を補足するには細胞内の代謝産物も捉える必要がある。そこで、メタボローム解析の実施も検討している。これらの解析は大阪大学の岡橋准教授の協力のもと実施する。
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Causes of Carryover |
当初計画では5菌株の蛍光タンパク質導入株の作成を初年度に全て行うことを計画していた。しかしながら、まず、5種のうち1種に焦点を絞り研究を先行することとしたため、他4種分の遺伝子合成費を次年度へ持ち越すこととした。また、転写解析は最適なタイミングで回収した培養物を使用する必要があるが、培養の結果、より条件を絞って実施すべきと判断したため、その分の解析費を次年度使用額とした。上記の実験および解析は当初計画より若干の遅れはあるものの、次年度計画に含め実施する。
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