2023 Fiscal Year Research-status Report
Analysis of Interactions between Cellulose and Aromatic Compounds to Enhance Enantiomer Separation by Cellulose
Project/Area Number |
22K14930
|
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
齋藤 靖子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (40757415)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 光学分割 / 分子間相互作用 / セルロースナノファイバー / キラル化合物 / 芳香核アミノ酸 / 核磁気共鳴分光法 / gel-state NMR / 飽和移動差NMR |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、植物細胞壁の主要構成成分であるセルロースを用いた光学異性体分割に関する研究である。セルロースはキラル中心を複数有する天然高分子であり、光学異性体の分割機能を示すことが知られているが、そのメカニズムの全容は明らかになっていない。本研究課題では、セルロースと芳香核との間に生じる特徴的な分子間相互作用に着目し、芳香核を有する光学活性体とセルロースの吸着挙動を検証することで光学分割機能のメカニズム解明を行い、セルロースの光学分割機能を強化することを目指している。前年度は、課題1のセルロースと特異的に相互作用する芳香族化合物のスクリーニング、および、課題2の溶液NMRを用いた分子間相互作用サイトの解明に取り組んだ。ナノセルロースへの吸着試験後サンプルを乾燥後、重水中に再分散し、ゲルNMR分析に供したところ、D-トリプトファンとL-トリプトファンの芳香核に由来するプロトンの化学シフトに差異が見られ、トリプトファンはD体とL体でセルロースへの吸着挙動が異なる可能性を見出した。そこで本年度は、引き続き課題2に取り組んだ。トリプトファンの重水溶液にナノセルロースを添加し、乾燥過程を経ないサンプルを用いてセルロースの濃度変化に伴う1H NMRスペクトルの変化を検証したが、D体とL体で明確な違いは見られなかった。同じく芳香核アミノ酸であるチロシンでもナノセルロースの有無によるNMRスペクトルの変化は見られなかった。ゲルNMR法ではセルロース由来のシグナルが検出できないという問題もあったため、セロヘキサオースを水溶性の低分子セルロースモデルとして用い、飽和移動差NMR法による検証を行った。その結果、トリプトファンの芳香核が検出される領域を励起した場合にはセロヘキサオースに由来するシグナルが検出され、トリプトファンの芳香核部位とグルコースユニットが近接していることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請当初における2年目の目標は、スクリーニングにより選定したキラル化合物とセルロースの分子間相互作用の解明とナノセルロースの光学分割能評価および機能強化であった。本年度に調製したNMR測定用試料ではセルロースの検出感度が低く、両者間の分子間相互作用を解析するためのNOE相関の検出が行えない等の問題があり、分子間相互作用解析手法の検討を中心に取り組んだ。その結果として、水系溶媒においては、セロオリゴ糖をモデル化合物として用いた飽和移動差NMR法が有用であることを見出した。その一方で、ナノセルロースの光学分割能評価の進行に遅れが生じている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度に、セロヘキサオースをセルロースモデルとして用いた飽和移動差NMR法がアミノ酸とセルロースの分子間相互作用を調べる手法として有用であることが示唆された。そこで、令和6年度の当初は、セロヘキサオースを用いた飽和移動差NMR分析により、セロヘキサオースとD-アミノ酸、および、セロヘキサオースとL-アミノ酸の間に生じる分子間相互作用解析を行う。さらに、現在行っているNMR分析条件ではナノセルロース由来のシグナルが十分に検出できない問題があるため、セルロース由来のシグナルが検出可能であることが既知の溶媒系によるNMR分析を行う。そのうえでオープンカラムクロマトグラフィーによる光学分割能評価を行い、分子間相互作用と光学分割能との相関を検証する。
|
Causes of Carryover |
ナノセルロースを用いたセルロースとアミノ酸のゲルNMR法による分子間相互作用解析に課題があり、分子間相互作用解析手法の改良に注力したため、本年度のカラムクロマトグラフィー実験に遅延があり、クロマトグラフィー関連の支出が想定より少なくなった。次年度は、NMR法による分子間相互作用評価を進めるために、現在検証中の水系溶媒に加えて、ナノセルロースのシグナルを検出可能ということが判明しているジメチルスルホキシド溶媒等を検証する計画している。それらに必要なNMR試薬や有機溶媒系でも使用可能なオープンカラム用器具を購入し、セルロースの光学分割機能の調査を進める。
|