2022 Fiscal Year Research-status Report
気候変動下における持続的な棚田保全に向けた灌漑・水管理の最適化モデルの開発
Project/Area Number |
22K14966
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
高田 亜沙里 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究部門, 研究員 (40912069)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 棚田 / 水利システム / 気候変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は研究実施計画のうちの(1)水利システムと用排水網の解明,(2) 水文気象・地形データの収集,(5)気候変動下における耕作放棄リスクの評価と水管理手法の提案,について重点的に取り組んだ.(1)に関しては,つづら棚田を構成する水田一枚一枚の用排水網と灌漑手法を踏査し,記録した.また,チプタゲラ棚田の住民を対象に,水管理に関する規則や管理方法について聞き取り調査を行なった.(2)に関しては,国土交通省・水文水質データベースからつづら棚田近傍の観測所における日雨量データを入手したが,流量や用水量に関するデータが得られなかったため,現地観測を検討中である.チプタゲラ棚田では,設置済みの雨量計と河川水位計の観測を引き続き実施していく.(5)に関しては,気候変動による水稲と水資源への影響評価および適応策の提案を目指して,気候変動による水資源量や適応策としての作付け時期(農業用水の利用期間)の変化が,水需給バランスに対して及ぼす影響の評価手法を構築した.水稲の収量・品質を予測する水稲生育収量予測モデルと,渇水リスクを評価する分布型降雨流出モデルに対して,同一の気象予測値と農業水利用時期を与えて実行し,気象予測値や農業水利用時期が変化した場合に,収量・品質と渇水リスクに及ぼす影響を評価した.気象予測データについては,CMIP6の全球気候モデルの出力値を入手し,1 kmグリッドへのダウンスケーリングとバイアス補正を実施した.気象や農業水利用に関するデータが十分に得られた信濃川流域に対して,構築したプロトタイプモデルを適用したところ,品質の向上を目指して作付け時期を変化させると,渇水リスクが増加する結果が得られた.次年度以降は,つづら棚田へのモデル適用に向けて,流量・用水量の現地観測や水循環モデルの構築を進めていく.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,実施計画書のうち,(1)について特に進捗しており,つづら棚田では踏査による水利システムと用排水網の把握,チプタゲラ棚田では水管理に関する規則や管理方法の聞き取り調査を実施できた.(2)については,雨量データは収集できたものの,流量や用水量データが得られなかったため,現地観測の準備を進めている.(3)と(4)については,(1)で得られた水利システムや用排水網のデータをもとにモデル構築を行なっているものの,流量や用水量データが必須なため,次年度からは現地観測を優先的に取り組み,観測データがある程度揃った時点からモデル構築を加速していく.(5)については,気候変動による水資源量や適応策としての作付け時期の変化が,水需給バランスに対して及ぼす影響の評価手法を構築し,研究目的の一つである「気候変動下における適切な水管理手法の提案」に資する検討を実施できた.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,研究計画の(2)水文気象・地形データの収集に関して,精査領域であるつづら棚田における流量や用水量データの現地観測を優先的に行なっていく.現地調査で把握した用排水網をもとに,主要な7本の用水路に水位計を設置予定である.(3)水利システムを精緻に表現可能な水循環解析モデルの構築,(4)水管理の最適化モデルの構築については,まずはつづら棚田の水利システムや用排水網をもとに,どのモデルが適しているか文献調査を行なっていき,観測データがある程度揃った時点からモデル構築を加速していく.(5)気候変動下における耕作放棄リスクの評価と水管理手法の提案については,気候変動下で想定される水資源リスクや適応策の評価に関して,まずは観測データが揃っている国内の他流域を対象に手法の構築を進めていく.
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Causes of Carryover |
今年度の初めに本研究課題に対して十分なエフォートを割くことができず,当初計画していた現地観測が実施できず旅費と観測機器代が浮いたこと,購入予定だったArcGISのライセンスがサブスクリプション形式に変更となり初年度の購入費用が想定していた金額より掛からなかったため,次年度使用額が生じた.次年度以降では,ArcGISのサブスクリプション更新費用,および現地観測に際する機器の購入費用と旅費に当該助成金を使用していく.また,翌年度分として請求した助成金については,当初の計画通り,国内外での研究成果発表旅費,論文投稿費用に使う予定である.
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