2023 Fiscal Year Research-status Report
日本人の撹乱は生物多様性維持に貢献してきたか―草地性植物の集団動態から探る
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22K14976
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
倉田 正観 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 助教 (40899324)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 半自然草地 / 次世代シークエンサー / リシークエンス / 集団動態推定 / 最終氷期 / 系統地理 / 分布変遷 / MIG-seq |
Outline of Annual Research Achievements |
日本の極相は主に森林であるため、草地環境は高山や海岸周辺以外には成立しづらい。しかし、随所に人為的撹乱(火入れ、採草、放牧等)により維持される半自然草地が存在し、草地性植物の生育適地となっている。また、草地性植物の多くは東アジア大陸部(朝鮮半島、中国北東部、極東ロシア)にも分布することから、これらは氷期に陸橋を介し日本列島に渡ってきたと考えられている。以上のことから、「本来森林が成立するはずの環境に日本人が火入れ等を行うことで草地環境が維持され、そこに草地性植物が遺存してきた」という学説が唱えられているが、本学説に関する遺伝学的知見は限られる。本研究は、大規模ゲノム情報を用いて草地性植物の集団動態(過去から現在における個体数の変動)を推定することで上記学説を検証するものである。 本年度はキセワタ(シソ科)及びキキョウ(キキョウ科)の採集と遺伝解析(ゲノム縮約解析及び全ゲノムリシークエンス解析)を実施した。研究協力者のサポートも得つつキセワタについては新たに7地点、キキョウについては20地点から遺伝解析用の個体を採集できた。昨年度までに採集した個体も含めて各種遺伝解析を進めたところ、キセワタについては地域ごとに遺伝的なまとまりが検出されたが、キキョウについては地域間の遺伝的な分化の程度が小さいことが分かった。また、全ゲノムリシークエンスだが、キセワタについてはシークエンス解析まで完了した。キキョウについては予算の都合上、本年度における全ゲノムリシークエンス解析は実施できなかった。 引き続き、草地性種・タチフウロと森林を好む種・イヨフウロの集団遺伝学的解析を進めた。その結果、最終氷期におけるタチフウロの分布は連続的で、分布拡大も急速に起きたと推定された。一方で、イヨフウロの最終氷期における分布は非連続的で、完新世以降の分布域も分断されていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度も異動初年度で、教育・運営業務と研究のバランスがとりづらかったため、サンプル採集は進んでいるものの各種解析の遂行が遅れてしまった。十分な成果を出せるよう、引き続き野外調査及び各種解析に注力していく。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き野外調査、各種遺伝解析を進める。キセワタについてはほとんどの集団についてリシークエンス解析が完了しているため、今後はリシークエンスデータに基づく集団動態推定を実施する。キキョウについてはリシークエンス解析を実施し、集団動態推定を実施する。また、両種とも引き続きMIG-seqによる集団遺伝学的解析を実施する。各種解析が完了した後、成果を投稿論文としてまとめる。
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Causes of Carryover |
教育・運営業務と研究のバランスがうまくとれず、本年度予定していた野外調査等を実施できなかったため。申請時の内訳通り、備消耗品や旅費、受託解析費等に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)