2022 Fiscal Year Research-status Report
マダニ唾液分子HlSG-g22に見出された宿主免疫制御メカニズムの解析
Project/Area Number |
22K14997
|
Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
川田 逸人 北里大学, 医学部, 特任助教 (80899295)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | マダニ / フタトゲチマダニ / 抗炎症性唾液物質 / 病原体伝播幇助 / RNAi / マダニ吸血生理 |
Outline of Annual Research Achievements |
吸血を介して様々な病原体を媒介するマダニが吸血時に分泌する唾液中には生化学的多様性に富んだ生理活性物質、すなわち唾液物質が含まれており、一部の抗炎症性物質がマダニ媒介感染症(tick-born disease: TBD)の病原体伝播を促進することが報告され、TBD予防医学における新たな創薬標的として注目されている。当研究室にて単為生殖系フタトゲチマダニ岡山株の唾液腺より見出されたHlSG-g22様分子はシカダニが有する抗炎症性物質を検索配列としており、SWISS-MOEDLを用いた立体構造解析の結果、クリイロコイタマダニが有するケモカイン結合タンパク質と部分的な構造類似性を有することから抗炎症作用を有する可能性が極めて高い。そこで本研究年度ではHlSG-g22様分子が有する抗炎症作用について逆遺伝学的解析を行った。初めにdsRNAによるRNA干渉を用いたHlSG-g22様分子ノックダウン(kd)マダニ(実験群)を作製し、吸血後4日目のkdマダニ刺咬部位にて生じている炎症反応について比較解析を行った。なお、陰性対象には大腸菌のマルトース結合タンパクに相補的結合を示すdsRNAを用いた(対象群)。その結果、自然免疫反応において顕著な差は観察されなかったが、本来対象群では観察されないT細胞が実験群にて観察され、一視野におけるT細胞数が対象群と比較して実験群で有意に多いことを見出した。以上の結果からHlSG-g22様分子は刺咬部位にて発現しているケモカインを抑制することで宿主獲得免疫を抑制していることが示唆される。加えて先行研究では当該遺伝子が血管内皮細胞におけるVE-cadherinの発現を調節している可能性が示唆されていることから、両者に共通するケモカインを特定し、in vitroにてHlSG-g22様分子が有するケモカイン抑制作用を明らかにしたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は段階的に研究が遂行され、HlSG-g22様分子が有するマダニ刺咬部位での役割が明らかになってきている。特に先行研究にて明らかになっているVE-cadherin発現調節機能および今回知見を得ることができたT細胞遊走抑制機能はどちらもケモカインによる調節を受け得ることが報告されていることから、次年度以降HlSG-g22様分子が有するケモカイン結合性を評価することで当該遺伝子が有する抗炎症作用を分子生物学的に明らかにすることができると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
HlSG-g22様分子の抗炎症性作用を評価するため下記の研究を予定しているが進行状況によっては前後して行うことも予想される。 1)計算科学的手法を用いたHlSG-g22様分子の機能予測:先述のSWISS-MODELより既知のケモカイン結合タンパク質との構造類似性が示されたことからAlphaFold2を用いた立体構造予測および統合計算化学システムを用いたタンパク質―タンパク質ドッキングシミュレーションを行うことでHlSG-g22様分子が有するケモカイン結合性を予測する。 2)培養細胞を用いたケモカイン阻害作用の評価:先述の血管内皮細胞におけるVE-cadherin発現抑制調節およびT細胞遊走抑制機能について、培養細胞を用いた分子生物学的機序の解析を行う。具体的にはHlSG-g22様分子の組み換えタンパク質を作製し、血管内皮細胞およびT細胞の培養細胞に対し、ケモカイン単独刺激群・HlSG-g22様分子共刺激群を作製し、VE-cadherin発現量もしくはT細胞の走化性を評価し、比較解析を実施する予定である。
|