2022 Fiscal Year Research-status Report
Mechanisms on complex stress tolerance and virulence expression induced by nucleoid clogging in Staphylococcus aureus
Project/Area Number |
22K15038
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
牛島 由理 筑波大学, 医学医療系, 助教 (80812297)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 黄色ブドウ球菌 / 核様体 / ストレス耐性 / 遺伝子制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「黄色ブドウ球菌は酸化ストレスに曝されると、核様体を凝集することでゲノム複製開始点周辺の遺伝子発現に影響を与え、それによって宿主環境に適応する」という細菌の新たな感染戦略の仮説を立証することを目的としている。令和4年度では、当初の計画通り、【計画1:核様体凝集能を持たないMrgA変異タンパク質とmrgA変異株の作製】に着手しつつ(進行中)、【計画2:核様体凝集の複合ストレス環境下での生存への寄与の証明】において、凝集依存的に発現する遺伝子群から予測された「酸ストレス」(単独ストレス)から「酸+酸化ストレス」(複合ストレス)試験までを先行して検証した。 計画1では、SpyCatcher-SpyTagを用いた系の確立に向け、Spytagの位置やリンカー配列の有無が異なる様々な変異体MrgAタンパク質をデザインし、SpyCatcherタンパク質も加えてそれぞれの組換えタンパク質を精製する準備にまで至った。計画2では、まず、MrgAおよびそのフェロキシダーゼ活性が酸耐性に寄与することを明らかにした。次に、酸化ストレスによって核様体を凝集し、続いて酸ストレスに曝し、菌の生存を調べた。その結果、酸化ストレス誘導型核様体凝集が、核様体凝集によって発現が増加する遺伝子を介して、酸ストレス下での菌の生存を向上させることを強く示唆する結果を得た。 まだ表現型のみの確認ではあるが、本仮説を支持する結果が得られたことは、仮説立証に向け意義ある一歩となった。この一例を皮切りに、その他の複合ストレス耐性や病原性発揮についても検証を進めていく予定である。また、複合ストレス耐性の制御基盤となる遺伝子発現メカニズムの解明に向けても、複製開始点周辺の遺伝子群を他の位置へ移動させ、その発現変化が核様体凝集依存的かどうか検証する準備段階に入った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度に計画していた実験は以下の2項目である。 計画1: 核様体凝集能を持たないMrgA変異タンパク質とmrgA変異株の作製 計画2: 核様体凝集の複合ストレス環境下での生存への寄与の証明 計画1においては、現在SpyCatcher-SpyTagを用いた系の確立を試みている。MrgAのフェロキシダーゼ活性や12量体形成を保持しつつ、核様体凝集が阻害される変異体を作製する必要があるため、Tagの位置(N末、C末)やリンカー配列の有無を変えた変異体を複数作製中である。一方、この変異体作製が上手くいかなかった場合のバックアップ実験も計画しており、MrgAの核様体凝集能の役割を直接検証するという目的は達成される見込みである。 計画2においては、酸+酸化ストレスの複合ストレス耐性への寄与を示すことが出来たため、仮説立証に向けた大きな第一歩となった。仮説をさらに支持するデータを得るためにも、他の複合ストレス耐性や病原性への関与を検証する実験に取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
計画2は順調に進展しているため、計画1の対応策について具体的に記述する。 まずは、精製タンパク質を用いて、SpyCatcher-SpyTagの系がMrgAのDNAへの相互作用を阻害するかどうかin vitroで検証する。12量体形成、フェロキシダーゼ活性、DNA結合を検証する実験系はすでに確立出来ているのでこれを用いる。12量体形成、フェロキシダーゼ活性を保持しつつ、DNA結合出来ない(核様体凝集しない)MrgA、SpyCatcher-SpyTagの系が明らかになれば、これを黄色ブドウ球菌内で発現させ、in vivoの検証へ進める。SpyCatcher-SpyTagの系が上手くいかない場合に備え、以下の実験も計画中である。 (1) プルダウンアッセイ法を用いたMrgAのDNA結合領域の特定(DNA配列またはMrgA側のアミノ酸配列):これまで、アミノ酸配列や結晶構造からは予測出来ず、MrgAのDNA結合に重要なアミノ酸やDNA結合領域が分かっていないことが、核様体凝集能を持たない変異体作製のボトルネックとなっていた。抗MrgA抗体は既に作製済みであり、プルダウンアッセイ法による重要な配列の特定を試み、上手く特定することが出来れば、その配列を用いて凝集能を持たないMrgA変異体の作製に再着手する。 (2) 大腸菌Dps株の利用:大腸菌DpsのN末DNA結合ドメイン(ブドウ球菌には存在しない)を削った変異タンパク質を導入することによって、酸化ストレス消去能を維持するが核様体凝集能力を持たない黄色ブドウ球菌株を既に作製済みである。もし、現在計画する実験がすべて上手くいかない場合は、この変異株において、複製開始点周辺の遺伝子発現がどう変化しているかPCRやRNAseqによって解析する。凝集依存的な変化であれば、この変化がキャンセルされると予想し、直接的ではないが支持データを得る。
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