2022 Fiscal Year Research-status Report
氷と細胞に結合する天然多機能性タンパク質の分子メカニズム解明
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22K15071
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新井 達也 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (90890145)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 非凍結細胞保存 / 氷結晶結合タンパク質 / 不凍機能 / 細胞膜 / 氷結晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
氷結晶結合タンパク質(IBP)は0℃以下で氷に結合して発揮する不凍機能と、0℃以上で細胞に結合して発揮する細胞保護機能の2つの機能を有する。しかし、これらの2つの機能にどのような関連性があるのか、分子レベルの詳細な研究は行われていない。本研究では、複数のIBPを用いて細胞保護機能を網羅的に測定し、詳細な分子メカニズムの解明に挑むことを目的とした。 これまでに、IBPの非凍結細胞保護機能が様々な細胞に対して報告されてきたが、それを不凍機能と関連付けるような報告はなかった。そこで本研究ではまず、魚や昆虫や微生物由来の様々な種類のIBPの細胞保護機能を調べた。その結果、ほぼ全てのIBPが細胞保護機能を発揮することが明らかになった。さらに氷結晶結合部位に1アミノ酸変位を導入した変異体を複数作製し、それらの細胞保護機能を測定する実験を行った。その結果、不凍機能と同様に、1アミノ酸の変異によって、細胞保護機能を大きく変化させることが可能であることが分かってきた。これらの結果は、氷結晶結合部位が細胞保護機能に何らかの寄与をしていることを意味する。さらに、この結果は強力な細胞保護機能を有するIBP変異体の創造が可能であることも示唆している。 また、本研究の一環として、北極菌類由来のIBPの不凍機能解析も行い、論文として報告した(T. ARAI, et al. Scientific Reports, 2022, 12.1: 15443.)。本論文では、北極菌類IBPの不凍機能の強さとターゲットとなる氷結晶面の関係について詳細に調べた。これらの結果は、IBPのターゲット氷結晶面への選択性と、細胞吸着の相関を調べる上で非常に重要な示唆を与えると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでのところ計画通りに、魚や昆虫や微生物由来の様々な種類のIBPを発現・精製し、これらを用いて非凍結細胞保存実験を行うことに成功した。これらの実験の結果、ほとんどのIBPが細胞保護機能を有することがわかった。氷結晶結合面に1アミノ酸変位を入れたIBPを用いることで、氷結晶結合と細胞結合の関係性を調べた結果、変異体ごとに細胞保護機能に大きな違いが見られた。これは、氷結晶結合部位が細胞保護機能に関与している証拠である。現在は、不凍機能の強さと細胞保護力との相関関係を模索している。 更に、X線を用いた運動計測法である回折X線明滅法を用いて、AFPが吸着した細胞表面上での分子運動状態を放射光施設KEK PF-ARにて測定し、現在その解析を進めているところである。 一方、蛍光標識IBPを用いた細胞実験に関してはまだあまり進んでおらず、吸着量と細胞保護機能との関係性は、まだ明らかにできていない。
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Strategy for Future Research Activity |
IBPの氷結晶結合部位が細胞保護機能に関与することが変異体実験によって確かめられたが、今後は変位部位と変位先のアミノ酸の更に詳細な検討を行い、どのような相互作用でIBPと細胞が結合しているのか?を明らかにし、細胞保護メカニズムを分子レベルで明らかにする。 さらに、IBPが細胞に結合することで細胞内への水分子の流入を抑制し、細胞の膨張・破裂を抑制可能である事が、偶発的にわかってきた。一般的にこれまで、IBPは細胞膜に結合すると考えてきたが、細胞膜上のチャネルタンパク質も結合ターゲットとなる可能性が示されたことになる。この機能が、細胞の低温における膨張・破裂現象とどのような関係にあるのかを今後さらに詳しく調べていく。これらの結果を統括しIBPの細胞保護メカニズムの新たな仮説として提唱し、一連のIBPの細胞保護機能に関する結果を本年度中に論文として投稿する予定である。
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