2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K15113
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
塩見 晃史 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 基礎科学特別研究員 (60880557)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 1細胞RNA-seq / 機械特性 / 細胞表面張力 / 遺伝子発現 / オミックス解析 / エレクトロポレーション / トラックエッチド膜 / 細胞老化 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞の機械特性、特に細胞表面張力は細胞分化やガン化、老化といった様々な生命現象において重要な状態物理量として注目されている。しかし、生命現象における細胞の細胞表面張力と遺伝子発現を同時に解析することは技術的に困難であった。そこで本研究では、ナノポアエレクトロポレーション(NanoEP)によって一過的に生じる細胞膜のナノポアが細胞の細胞表面張力と相関する事を利用し、1細胞の細胞表面張力と遺伝子発現を大規模に統合解析可能な新規解析法 (ELASTomics)を開発する。 本年度は本研究の基盤となるELASTomicsの検討を行った。まず初めに、NanoEPにより蛍光分子(FITC-BSA)を細胞内へ輸送後、既存の原子間力顕微鏡(AFM)を用いた細胞表面張力の測定を行うことで、ELASTomicsと従来の方法の比較実験を行なった。その結果、NanoEPにより形成されるナノポアを介して細胞内へ輸送される分子の数と、細胞表面張力の間には高い相関があることが理論計算だけでなく、実験的にも明らかとなった。また、ELASTomicsに使用するDNAタグ付きデキストラン(DTD)の合成法の検討を行い、リジンが修飾されたDextranとアミノ基が修飾されたオリゴヌクレオチドをN-ethylmaleimideを用いたアミド結合で架橋後、アガロース電気泳動で副産物を除去することにより、DTDを生成する方法を確立した。さらに、細胞表面張力の異なることが報告されている4種の細胞株 (MCF7, MDA-MB-231, PC-3, MCF10A) に対してELASTomicsを実施し、報告されている細胞表面張力に比例してDTD導入量の違いがあることや、DTD導入量の測定と同時に遺伝子発現の解析が可能であることを確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ELASTomicsの基盤となるナノポアエレクトロポレーション(NanoEP)の詳細な検討を行い、NanoEPによる細胞内への分子の輸送量が細胞表面張力と相関することを実験的に証明できた。また、ELASTomicsで用いるDNAタグ付きDextran(DTD)の合成・精製方法を確立した。これらの結果を元に細胞表面張力の異なる4種の細胞株に対しELASTomicsを実際に行い、細胞毎の細胞表面張力に比例してDTDが検出されることを確認した。 DTDの現合成法は2段階の反応ステップを経ているため収率が悪いという問題点が残されているが、ELASTomicsを用いて細胞株の細胞表面張力を識別できるまでELASTomicsの開発は進んだため、概ね順調であると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は開発したELASTomicを用いて複製老化により様々な表現型を示すTIG-1細胞を複製老化させた際の老化の進行度と細胞表面張力の変化を統合解析することで、細胞表面張力と遺伝子発現の因果関係とその分子カスケードを明らかにする。一方で、マウスから単離した造血幹細胞や浸潤能の異なるがん細胞株に対しELASTomicsを適用し、細胞分化やがんの浸潤といった生命現象における遺伝子発現と細胞表面張力の相関を探索する。また、今年度開発したDTDの現合成法を発展させ、ミセル形成界面活性剤を用いたアミドカップリング法を用いることでDTDを1反応かつ高効率に合成する方法を確立する。 一方で、開発したDTDを利用して、細胞表面張力とは異なる細胞の物理状態である細胞変形能を遺伝子発現と共に統合解析するための新たな測定法を開発する。
|
Causes of Carryover |
当研究課題にて開発したDTDの合成のため必要な物品の一部が、新型コロナウイルスの影響により品薄状態が続いており、本年度終了までに購入できなかったことが主な理由である。差額は来年度に計画している国際共同研究のための旅費や物品費に使用する予定である。
|