2022 Fiscal Year Research-status Report
高時間分解・絶対定量代謝解析による光合成代謝変動と酸化還元バランス維持機構の解明
Project/Area Number |
22K15142
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
田中 謙也 神戸大学, 先端バイオ工学研究センター, 特命助教 (30916747)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 光合成 / カルビン回路 / メタボロミクス / 代謝フラックス解析 / レドックス / シアノバクテリア |
Outline of Annual Research Achievements |
シアノバクテリアSynechocystis sp 6803において、暗所から明所に移した後の代謝変化を秒単位で定量した。その結果、暗所では解糖系の代謝物である3-ホスホグリセリン酸、2-ホスホグリセリン酸、およびホスホエノールピルビン酸が高蓄積しており、これが光照射後すぐにCO2固定代謝経路であるカルビンサイクルに流れ込むことが明らかとなった。この成果は高速サンプリング手法と代謝物濃度の絶対定量法という独自アプローチを組み合わせることで、従来困難だった光合成活性化中の動的な代謝フラックス変化を求めることで達成された。さらに暗所で働く代謝経路として知られていたグリコーゲン異化経路および酸化的ペントースリン酸経路の欠損株では、解糖系の代謝物蓄積量が野生株に比べて減少し、光合成の開始効率が低くなることが明らかとなった。これらのデータから、光合成によるCO2固定の迅速な活性化には、解糖系の代謝物が暗所で蓄積していることが重要であることが明らかとなった。 研究で明らかになった光照射に伴って光合成がスムーズに始まる代謝基盤は、環境適応機構において代謝物濃度の適切な維持が重要であることを示唆している。今後、代謝物濃度やその維持機構に着目することで新たな環境適応機構が明らかになることが期待される。また、本研究成果が今後の研究にも大きな影響を与えることが予想される。例えば、本研究で用いられた高速サンプリング手法や代謝物濃度の絶対定量法および動的代謝フラックス解析手法は、他の微生物や植物の代謝解析にも応用が可能であり、新しい発見や知見の獲得につながることが期待される。また、明暗環境変化下でも安定した光合成による有用物質生産ができる菌株の作出指針となりえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、暗所から明所に移った際の高速代謝変化を高精度に解析でき、データを統合し、光照射直後の代謝フラックス変化を求めることができた。さらに遺伝子変異株の解析から、光合成開始効率に影響を与える代謝経路の特定に成功した。このように、光合成によるCO2固定が迅速に開始される代謝メカニズムを明らかにできた。これらの成果をまとめた論文はPlant Physiology誌に採択された。
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Strategy for Future Research Activity |
暗所で蓄積した解糖系代謝物がカルビン回路の基質として働くことで、光合成が迅速に開始されることが明らかとなった。今後は、遺伝子変異株を作成することで、暗所で解糖系代謝物が蓄積しているメカニズムのさらなる解析を行う。さらに得られた高速代謝変化をもとにカルビン回路の数理モデルを作成し、野生株で維持されている代謝物濃度の生理学的意義について研究を行う。
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Research Products
(7 results)