2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K15158
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
浅野 吉政 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (50872123)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 体内時計 / エネルギー代謝 / 時計出力 / microRNA / 転写後制御 / E4BP4 |
Outline of Annual Research Achievements |
24時間周期で繰り返される生理機能リズムは、生物が地球環境に適応して獲得した生体システムである。哺乳類においては、時計シス配列(E-box・D-box・RRE配列)と呼ばれるDNA上の制御配列を介した転写制御によって多数の遺伝子に転写リズムを与えている(時計出力)。申請者は、D-box出力の制御因子であるE4bp4を欠損したマウスを用いた解析を行い、E4BP4を欠損しても時計振動は正常に時を刻み続ける一方、D-boxを介した時計出力が破綻することを報告してきた。本研究ではまず、個体レベルの解析をおこないD-boxを介した時計出力が、どのような生理機能に重要であるか探索した。その結果、E4bp4を全身で欠損したマウスは、活動期と休息期の食事量が野生型のマウスと同程度である一方、体重の増加率が有意に低いことが明らかになった。また特定の時刻において、特定のエネルギー状態に晒されると、野生型マウスよりもエネルギー恒常性が崩れやすい状態にあることがわかった。さらに、どの臓器におけるE4BP4がこれらの生理機能を制御しているか明らかにするため、臓器特異的E4bp4欠損マウスを用いた解析をおこなった。その結果、肝臓におけるE4BP4が特定のエネルギー状態に対する応答に重要な役割を担っていることが明らかになった。さらには、これらの環境において、E4bp4欠損マウスを用いたメタボローム解析をおこない、肝臓におけるE4BP4が制御する可能性がある代謝経路を浮かび上がらせることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、時計出力を時計振動から切り分けて解析することにより、体内時計の時刻情報を生理機能へと伝える分子メカニズムを詳細に解析することを目的としている。上述の通り、新潟大学との共同研究により作出した肝臓特異的E4bp4欠損マウスを用いて様々なエネルギー代謝関連の表現型解析をおこない、当初の予定どおり、時計振動ではなく時計出力により制御される生理機能を浮かび上がらせることができた。これらの解析により、全身E4bp4欠損マウスにおいて観察されていた生理機能の異常の一部を、肝臓特異的E4bp4欠損マウスにおいても同様に観察することができた。全身欠損マウスにおいてみられた表現型の一部は、肝臓特異的欠損マウスにおいては観察されず、E4BP4が複数の臓器で異なる生理機能を制御していることが想定された。さらにE4BP4が影響を及ぼすエネルギー代謝経路を絞り込むため、これらのE4bp4欠損マウスの臓器を用いたメタボローム解析を慶応大学との共同研究により展開し、様々なエネルギー状態における代謝産物の測定をおこなった。その結果、エネルギー環境の変化に応じて代謝産物が大きく変化しており、それらの一部がE4BP4により制御される可能性が示唆され、当初の想定よりも早くD-boxを介した時計出力の作用点が明らかになってきた。もう一つの柱であるmicroRNAを介した時計出力機構については、幾つかの候補因子である二本鎖RNA結合タンパクを欠損した培養細胞の作出に成功しており、これらの細胞において、microRNAの量的変化ならびに、これらの候補タンパクが直接結合するmicroRNAを同定するため、RNA免疫沈降実験を行っている。このように、当初の計画異常に多くの成果を上げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の目標である、「D-boxを介した時計出力による生理機能の制御メカニズムの解明」において、E4bp4欠損マウスを用いた解析が順調に遂行できており、D-boxを介した時計出力の生理学的意義の一部については明らかにできつつある。今後、これらの生理機能におけるE4BP4の分子的作用点を明らかにしていきたい。様々なエネルギー状態で飼育したマウス肝臓から抽出したRNAまたはタンパクを用いた解析をおこない、E4BP4が影響を及ぼすエネルギー代謝経路を分子レベルで探索していく。また、microRNAを介した時計出力機構を明らかにするため、時計出力の下流にあると想定される二本鎖RNA結合タンパクに着目した解析を遂行していく。まず、これらの候補タンパクのmicroRNAの生合成における重要性を明らかにするとともに、どのような生理機能を制御しているか解析していく。すでに一部の候補タンパクを欠損した培養細胞の作出に成功しており、今後これらの欠損細胞を用いた解析を遂行していく予定である。今後も引き続き、時計振動と時計出力を切り分けた解析と並行し、時計出力に関連するmicroRNAやその下流の生理機能を分子レベルで解析していく。
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Causes of Carryover |
本年度に計画していた解析が当初の想定よりも順調に進み、条件検討実験の試行回数が少なく遂行できたことや、失敗のによる試行回数などがかなり少なく、当初計上していた経費に余裕が生じたため。
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