2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K15168
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
奥出 絃太 国立遺伝学研究所, ゲノム・進化研究系, 特別研究員(PD) (90934589)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | イトヨ / トゲウオ / 婚姻色 / 分子基盤 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、トゲウオ科魚類のイトヨにおける、繁殖期オスの腹面に現れる赤い婚姻色に着目し、イトヨのオスの婚姻色の進化をもたらす原因遺伝子・原因変異を同定し、それらが適応度(生存や繁殖成功率)に与える効果を解明することを目指す。 3年計画の1年目である2022年度には、繁殖期の5月・6月に北海道道東地方において、成熟したイトヨおよび近縁種ニホンイトヨを採集し、赤い婚姻色を呈している成熟オスの喉の皮膚および赤くない成熟メスの喉の皮膚を用いて、RNAseq法を用いた網羅的な遺伝子の発現解析を実施し、赤い婚姻色部位特異的な発現遺伝子群を同定した。また、研究室内での採卵・人工授精により得られた、まだ婚姻色を呈していない未熟なオスや、雄性ホルモン投与により赤い婚姻色を呈したメスについても、喉部分の皮膚からRNAを抽出し、RNAseqによる網羅的な遺伝子の発現解析を実施した。これらの結果を統合して、共通して赤い婚姻色部位で高発現している遺伝子を探索したところ、他の生物で体色形成に関与することの知られている遺伝子も含む複数の候補遺伝子が、赤い婚姻色部位特異的に発現していることを見出した。 また、成熟オスが赤色ではなく黒色を呈するトミヨ属魚類にも着目し、北海道道東地方において採集された、黒い成熟オスおよび黒くない成熟メスの喉の皮膚からもそれぞれRNAを抽出した。RNAseqによる網羅的な遺伝子の発現解析を実施したところ、トミヨの黒い婚姻色部位特異的に高発現する遺伝子群の同定にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である2022年度は予定通りに実験を進めることができ、成熟した野外個体・未熟な研究室内飼育個体・雄性ホルモン投与により婚姻色が誘導された個体などのさまざまな個体に関して、赤い婚姻色を呈する喉の皮膚および赤くない喉の皮膚からRNAを抽出することができた。これらのサンプルを使用してRNAseq解析を実施し、イトヨおよびニホンイトヨの赤い婚姻色を呈する喉の皮膚特異的発現遺伝子を探索した結果、複数の候補遺伝子の同定に成功しており、初年度の成果としては充分であると考えられる。2023年度以降はこれらの同定した候補遺伝子に注目して、機能解析実験や周辺制御領域の解析を実施することにより、本研究を進展させることができると見込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、2022年度に同定した複数の候補遺伝子について、CRISPR/Cas9法による遺伝子欠失個体を作出し、候補遺伝子の婚姻色への影響を解析する。遺伝子欠失個体の婚姻色に影響のあった場合には、その遺伝子をホモで欠失した個体を作出するとともに、その遺伝子欠失の適応度への影響を調査する。また、赤い婚姻色を呈する喉の皮膚および婚姻色のない赤くない皮膚において、ATAC-seq法によるオープンクロマチン領域の同定を行い、赤い婚姻色部位特異的なオープンクロマチン領域を同定し、婚姻色の発現に重要な制御領域の同定も試みる予定である。
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Causes of Carryover |
RNA等のサンプリングが、年度末ぎりぎりになってしまい、シークエンスのためのライブラリ作成などが次年度に持ち越しとなった。2023年度に試薬を購入し、解析を進める予定である。
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